目次
   3.2 節 廃プラスチック油化技術の原油節約効率
    3.2.1 廃プラスチック問題
    3.2.2 技術評価の理論的枠組み
    3.2.3 産業連関表の処理
    3.2.4 油化技術の数量的定式化
    3.2.5 油化部門を含まない解
    3.2.6 油化技術による原油節約量
    3.2.7 廃プラスチック油化技術の普及


3.2 節 廃プラスチック油化技術の原油節約効率   (目次へ



3.2.1 廃プラスチック問題   (目次へ


ここでは、前節で議論した経済内部における資源循環モデル、および再循環技術の評価問題を実証的に議論する。対象となる資源としては原油を考え、廃棄物としては廃プラスチックをとり上げよう。

廃プラスチックは家庭からのゴミ、あるいは産業廃棄物としてあらわれる。1988年に家庭から排出されたゴミの量は4839.2万tにのぼるが(注1)、そのうちの10〜15\%がプラスチック廃棄物といわれている(注2)。また、産業廃棄物としての廃プラスチックは1985年には282万t排出されている(注3)。一方、プラスチックの原料となる樹脂は1986年に937万t生産されているから(注4)、生産された量のかなりの割合がゴミとして排出されていることになる。

プラスチックがもてはやされる理由は、それが加工性にすぐれ物質的に安定しているからである。しかし、ゴミとして処理される場合にはいくつかの重要な問題を引き起こす。まず、ゴミも分解が容易であれば、生ゴミを土中に埋めて処理するように家庭でも処理可能であるが、プラスチックの場合これは困難である。さらに、発泡スチロール(発泡ポリスチレン)に典型的にあらわれるように、重量の割には大きな体積をとるために輸送の効率が悪い。さらに焼却処理すると熱量が高いために処理施設に大きな負担を与え、様々な大気汚染問題も生じる。また、海洋に投棄された大量の廃プラスチックは生物の体内に入り、生物種の存在さえも脅かすまでになっている。すなわち、プラスチックは廃棄物になったとたん、環境に対して強いストレスを与えることになるのである。

しかし、プラスチックはもともと石油からできているのであり、ゴミではなく資源として考えることによって新たな問題解決の道が開けてくる。1973年の第一次オイルショック以降、廃プラスチックを熱分解して油化する試みが広く行なわれたが、その後石油価格が低迷したことによって、これらの技術は本格的に稼働されることなく消滅していった。しかし、今日、廃棄物の量が巨大になるにつれて廃プラスチックの処理の軽減が重要な課題になっていること、さらに新たに触媒を利用した、より簡便な分解方法があらわれることによって、廃プラスチックの油化技術は再び注目を集めている。

この廃プラスチックの油化技術は二つの種類の効用をもっている。第一に、廃棄物を埋め立て処理でもなく、焼却処理でもない方法で処理していることである。第二には、非更新性の化石資源として希少性が問題になっている石油を再び生み出すということである。前者の効用は、直接に明らかである。しかし、後者の点での有用性は直接に明らかにすることはできない。もし、1 l の石油を再生するのに、電気あるいは設備などの生産のための資財を通して間接的に1 l 以上の石油が必要となるならば、この技術は石油を節約するような油化技術ではなくなる。ところが、このように生産財を通して必要とされる石油の量を確定することは大きな困難をともなう。あらゆる生産財が今日なんらかの形で、間接的に石油を必要としていることは明らかだが、その個々の財ごとの必要量は巨大な生産をめぐる社会的な相互関係の中に隠されてしまっているからである。

さらにまた注意しなければならないことは、この油化技術が社会的な意味で石油を節約する技術であるかどうかということと、付加価値を産む技術であるかということは基本的に違った事柄であるということである。すなわち、廃プラスチックの油化技術で再生された石油を通して獲得可能な収入から、その原材料コスト、設備用役コスト(人件費は含まない)を差し引いた後に残額が在れば、それはこの技術の稼働が生み出した付加価値に対応するが、この付加価値が発生するかどうかは1単位の石油の再生のために間接的に必要とされる石油それ自身が1単位よりも小さいかどうかということとは直接対応しないのである(注5)。したがって、付加価値を生み出さなくても社会的にみれば原油を節約する技術になっていることはありうるしまた逆に付加価値を生み出すものであっても原油節約ではない場合もあるのである。

本節では、この廃プラスチック油化技術がその設備を含む生産財の再生産に間接的に必要な石油を考慮しても原油を節約するといえるかどうかを検討する。基本的な結論を先取りすれば、廃プラスチック油化技術は付加価値という点では非効率的であっても、社会的には原油節約となる有効性の高い技術であるということになる(注6)。われわれの推定する廃プラスチック油化部門が、現在統計的に把握されている廃プラスチックのほとんどを処理した場合、その節約量は757万klと計算される。これは1985年の最終需要を賄うために必要な総原油量の約4\%を節約することを意味している。


3.2.2 技術評価の理論的枠組み   (目次へ


以下の議論の基礎となる理論的な枠組みを示しておこう。基本的なデータとして産業連関表を利用するので、特に断わらない限り量の単位は貨幣額で表わされる。まず、産業連関表の生産部門をn部門、財がm財あるとしよう。これには、廃プラスチック油化部門、及び財としての廃プラスチックは含まれていない。Aをm\times nの投入係数行列とする。通常の産業連関分析に用いられる投入行列と異なるのは、m=nを必ずしも想定していないことである(注7)。その第$i$行、$j$列の要素$a_{ij}$は第$j$部門の1単位の稼働に必要な第i財(輸入財は含まない)の量である。ここで、この投入係数には原材料ばかりでなく資本設備用役の投入係数も含まれているとする。Bはm\times nの産出係数行列である。その第i行、j列の要素bijは第j部門の1単位の稼働によって生産される第i財の量である。通常の産業連関分析の場合、各部門は1種類の生産物しか生産しないことが想定されているので、Bはただの対角正方行列であるが、われわれは、いくつかの部門について結合生産および副産物の存在を考慮するのでそのような行列にはならなくなる(注8)。$g$を輸入係数のn次元行ベクトルとする。すなわち、その第j番目の要素はj部門の1単位の稼働に必要な輸入財の総量であるとする。財の輸入が存在する限り生産物のうち一定の部分は輸出に向かわなければならなくなるが、eを輸出構成比をあらわすバスケット(m次元列ベクトル)としよう。すなわち、1単位量の輸出はeという配分された形で行なわれるということである。dは国内品に対する最終需要のm次元ベクトルでdm+1番目の要素は輸入財に対する最終需要の全体をあらわす。c' は各部門の輸入原油投入量をあらわすn次元行ベクトルである。すなわち、その第j番目の要素は第j部門の1単位の生産に必要な輸入原油量をあらわす。さらに、国内原油の生産部門は第k番目であるとして、c' の第k番目の要素の1を加えたものをcという行ベクトルであらわすことにしよう。

さしあたってここで、廃プラスチック油化部門が含まれていない形での投入原油最小化問題を定式化しよう。xはn次元の稼働水準ベクトルで、その第j要素は第j部門の稼働水準をあらわす。また、xn+1は輸出量をあらわす。

min. \hspace{1cm} c'x+xk

\hspace*{3cm} s.t.

(B-A)x -exn+1 \geq d



-gx +xn+1 \geq dm+1



x \geq 0, \hspace{5mm} xn+1 \geq 0

最小化すべき目的関数は、原油輸入投入量と国内原油の生産量の合計である(注9)。cの定義からc'x+xkは簡単にcxとあらわすことができる。制約条件の第1式はm次元列ベクトルに関する式であるが、国内財に対する需要が供給を上回らないことをあらわしている。第2番目の式は輸入総量が輸出量を上回らないという条件をあらわしている。最後のものは、稼働水準についての非負条件である。

この双対体系も定式化しておこう。vをm次元の価値行ベクトルとし、問題の性質から原油で計られた価値をあらわす。vm+1は一般的輸入財に関する原油価値である。

max. \hspace{1cm} vd+vm+1dm+1

\hspace*{3cm} s.t.

v(B-A) -vm+1g \leq c



-ve +vm+1 \leq 0



v \geq 0, \hspace{5mm} vm+1 \geq 0

目的関数は消費財の原油価値の最大化をあらわしている。制約条件の第一式はn次元行ベクトルに関する式で各部門の産出財の原油価値がその投入財の原油価値を上回らないという価値保存に関する条件をあらわしている。第二式は輸入財の原油価値が輸出バスケットの原油価値を上回らないという条件をあらわしている。

双対定理により(注10)、最小化問題の最小値と、最大化問題の最大値はそれぞれが解をもてば一致する。われわれは、社会的な生産体系が最終消費財を生産するために必要な生産性の水準を有していることを前提にするので二つの問題は解をもつことを仮定する。この両者の問題の間には密接な関係があるのであるが、廃プラスチック油化部門を含まないこの段階では特に双対解が重要な意味をもっている。双対解のvおよびvm+1の意味は、たとえば第i財に対する最終需要が限界的に増大した場合の目的関数の増大する比率をあらわしている。すなわち、

vi = (Δ cx)/(Δ di)

である。ここで、 Δ は微小な増大をあらわしている。そこで、いま1単位の原油を廃プラスチックから再生するために必要な財の投入係数列ベクトルをan+2とするとvan+2はこの技術の導入による必要な原油量の増大分をあらわしている。したがって、いま、廃プラスチックが原油価値として無価値だと仮定すると(廃プラスチックは過剰生産傾向が強いと考えられるからこのことの現実性は高い)、1>van+2ならば、廃プラスチック油化技術の導入によってさらに必要となった原油よりも再生された原油の方が多いことをあらわしているのである。すなわち、このvという価値体系は廃プラスチック油化技術の原油節約効率を計る上で重要な基準となる可能性をもっているのである。これについては、さらに以下で廃プラスチック油化部門を含む問題を定式化したのちに再度議論することにしよう。

上で用いたようにan+2を廃プラスチック油化部門の投入係数行列、およびその生産水準(稼働水準)をxn+2とする。wを各部門の1単位の稼働によって廃棄されるプラスチックの量をあらわすn次元行ベクトルとしよう。wn+2を廃プラスチック油化部門の1単位の稼働(1単位の原油の再生)に必要な廃プラスチックの量とする。さらに、whを家庭から排出される廃プラスチックの量であるとしよう(注11)。また、$N$を天然の原油投入量としよう。このとき問題は次のように定式化される。

min. \hspace{1cm} N

\hspace*{3cm} s.t.

(B-A)x -exn+1 -an+2xn+2 \geq d



-gx +xn+1 \geq dm+1



-cx xn+2 +N \geq 0



wx -wn+2xn+2 \geq -wh



x \geq 0, \hspace{5mm} xn+1 \geq 0, \hspace{5mm} xn+2 \geq 0

目的関数は天然資源の投入量の最小化である。第一式は、国内財に対する需給条件、第二式は輸入財が輸出を上回らない条件、第三式は少なくとも石油の再生分だけは天然原油の投入量が節約されるという条件をあらわしている。ここでわれわれは、国内原油も輸入原油も再生石油も相互に完全代替的であると想定している。第四式は廃棄物の需要がその供給を上回らない条件をあらわしている。

前と同様にこの問題の双対体系も定式化しておこう。vm+2,vwをそれぞれ原油と廃棄物の価値とする。

max. \hspace{1cm} vd+vm+1dm+1-vwwh

\hspace*{3cm} s.t.

v(B-A) -vm+1g -vm+2c +vww \leq \phi



-ve +vm+1 \leq 0



-van+2 +vm+2 -vwwn+2 \leq 0



vm+2 \leq 1



v \geq 0, \hspace{5mm} vm+1 \geq 0, \hspace{5mm} vm+2 \geq 0, \hspace{5mm} vw \geq 0

ただし、\phiはすべてが0の要素からなるm次元行ベクトルである。また、われわれは天然原油の投入を完全をゼロにすることは不可能であることを前提にするので(注12)、最小の$N>0$であるから、双対定理から双対問題の最後の式は完全な等号で成立しなければならない。したがって、vm+2=1、すなわち原油の原油価値は1、という自然な結果が導かれる。

われわれの基本的問題は、廃プラスチック油化部門が加わることによって、最終消費バスケットの生産に必要な天然原油の量が減少するかどうかである。そこで、さきに考察したように廃プラスチック油化部門を含まない問題における双対解をvおよびvm+1として、この価値体系で評価した油化技術を調べることの意味をここでもう一度検討することにしよう。今もし、

van+2 \geq 1    (E1)

が成立したとしよう。すなわち、1単位の原油の再生に必要な生産財を原油価値で評価したときに1かそれ以上の値になっていたとする。このとき、廃プラスチック油化部門を含む双対問題における解をv*,v*m+i,(i=1,2),v*wとすると、

v*d+v*m+1dm+1-v*wwh < vd+vm+1dm+1-vwwh    (E2)

となることはありえないことが示せる。双対定理により、双対問題の最適解の値と原問題の最適解の値は一致するから、(E2)の意味することは、(E1)が成立するときに、廃プラスチック油化部門を稼働させることによって消費バスケットの生産のために社会的に必要な原油量は節約されないことを示している。(E1)が成立するときに(E2)が成立しないことを示すことは容易である。vおよびvm+1を廃プラスチック油化部門を含まない双対問題の解とし、さらにvm+2=1、vw=0とすると、(E1)が成立するもとでは、これらは廃プラスチック油化部門を含む双対問題の実行可能解、すなわちその制約条件を満たす解となっていることが分かる。ところがもし、このとき(E2)が成立していると、その実行可能解の中に目的関数をより大きくする最適解が存在することになり矛盾する。したがって、(E2)が成立することはありえない。

すなわち、廃プラスチック油化部門が原油節約的であるためには、

van+2 < 1    (E3)

が成立することが必要条件なのである。確かに(E3)はその十分条件であるとはいえない。すなわち、(E3)が成立したときに社会的な必要原油量が廃プラスチック油化部門の稼働によっても変わらない場合が存在することを完全に否定できないからである。しかし先の考察から、そうしたケースはきわめてまれにしかおきないと予想される。また、廃プラスチックは、原油の節約という点では、浪費することがないだけで、廃プラスチックを処理するという点の効用がもたらされるのであるから、(E3)の条件は、廃プラスチック油化技術の効率性評価の重要な基準となるものである(注13)。

現実には、廃プラスチック油化技術を含むような問題を解けばそれが原油節約効果をもつかどうかは確実に判定されるのであるが、(E3)の形での評価の長所は、そうした問題を解くことなく、原油価値ベクトルさえ提示されていれば、問題になっている技術の原油節約効果が判定されることにある。したがって、この技術を導入する側としては原油価値ベクトルさえ知らされていればその導入の社会的意味を大規模な計画問題を解くことなく判断できるのである(注14)。


3.2.3 産業連関表の処理   (目次へ


まず、廃プラスチック油化部門そのものの技術およびその他の部門のプラスチック廃棄物の生産の問題を除いたデータの処理について述べておこう。量の単位は他の単位を与えたもの以外は1単位100万円という金額表示である。理論的な枠組みのところにあらわれたさまざまなデータは基本的に1985年の産業連関表からとることにする。特にその中の183部門の統合表を基本にするが、必要に応じて基本表からもデータを採取した。183部門のうち鉄屑と非鉄金属屑は独立した部門を構成していないので、生産部門としては181部門になる。鉄屑と非鉄金属屑は各部門が副産物として生産するものとして扱うことにしよう。したがって、そのままでは生産部門が181、財が183となるが、石油精製部門を一つの財を生産する部門として取り扱うことは、われわれが原油を重要な財として扱うという点からみて大きな問題がある。そこで、石油精製部門は各石油製品を結合生産するとして扱うことにしよう。すなわち、石油精製部門は精製によって、揮発油(ガソリン)、ジェット燃料、灯油、軽油、A重油、B・C重油、ナフサ、液化石油ガス、その他の石油製品を結合生産するとする。これらのデータは、基本表からえることができる。したがって、部門数はそのままだが、財の数は191となる。また、各部門の稼働水準は、石油精製部門を除いてそれぞれの主生産物の生産量(単位100万円)で計り、石油精製部門は揮発油の生産水準で稼働水準を測ることにしよう。

具体的なデータとして、まず、A行列から検討しよう。原材料の投入係数は、投入量を各部門の稼働水準で割ることによってえることができる。資本用役の投入分については、第2章2.2節と同様な方法によって、A行列の中に付加した。

B行列は、各部門、すなわち各列について主生産物に対応する行には1の値、鉄屑、非鉄金属屑の行には、主生産物1単位の生産水準によって生み出される量を与えることになる。先にも述べたように、石油精製部門の列は、揮発油の生産水準によって稼働水準を測るので、揮発油の行が1で残りはこの生産にともなう副産物の財の生産水準を与えることになる。

gは産業連関表から、各部門の輸入財の投入額を出してそれを稼働水準で割ることによって求める。eは輸出量を合計が1になるように正規化することによって求める。cは各部門の輸入原油投入量を係数化し、国内原油生産部門の個所に1を加えることによって作成する。実際には、ほとんどが石油精製部門に輸入原油の投入は集中し、残りわずかの部分を電力部門が投入しているのみである。そして、このベクトルだけは、1単位を1Klという完全な物量表示で与えることにする。dは最終需要ベクトルから、国内財に対する需要分を取り出して求め、輸入分は合計して、dm+1に計上する。


3.2.4 油化技術の数量的定式化   (目次へ


われわれの問題としている触媒方式による廃プラスチック油化技術は実用化され確立した技術とはいえない段階にある。したがってその技術を定式化する場合、それが社会的な部門として成立しているものとして議論するにあたっては、なんらかの推計的な議論にならざるをえない(注15)。

そこで、まず廃プラスチック油化技術の固定設備を除いた投入係数の推計値を導出しよう。廃プラスチック1tの処理にかかわる原材料投入を考えよう。まず、実際の廃棄物を洗浄、選別、破砕する前処理段階については、電力1,100{\em Kwh}その他の費用14,000円分がかかると推計する。さらに、触媒法による油化の段階で重油200{\em Kg}、電力400{\em Kwh}、触媒2,000円分、その他の費用2,000円と推計しよう。ところで、1tの原料から800{\em Kg}の石油が再生されるが、重油200{\em Kg}分はこの再生石油で代替することにして、この廃プラスチック油化技術の原料投入を次のように推計する。すなわち、原料1t、再生石油600{\em Kg}(約750{\em l})、電力1,500{\em Kwh}、触媒2,000円、その他の費用16,000円とする。原料以外のものを1985年時点の価格で貨幣額表示すると、表~T1のようになる(注16)。

生産物 再生石油 32,755円
投入 電力 36,534円
触媒 2,000円
その他 16,000円
廃プラスチック 1$t$

表(T1) 廃プラスチック油化技術の原料投入


さらに、これらの投入物を産業連関表の財分類に対応させなければならない。電力は産業連関表に電力部門が独立して扱われているので、そのままでよい。触媒は、産業連関表の分類における「その他の無機化学基礎製品」の生産物に対応させる。さらに、「その他」の分をどうするかが問題だが、これは、この廃プラスチック油化部門に最も近いと思われる「石油化学基礎製品」の部門において、「その他の無機化学基礎製品」および石油製品、石油化学関連製品、電力、を除いた投入を構成比化して、それによって「その他」の費用を配分してそれぞれの財の投入とすることにしよう。これがどのように配分されたかについては、<付表>の第2列の原料投入量の列に示している。この列の値を再生石油の額で割ることによって、投入係数ベクトルan+2をえることができる。

固定設備用役の投入総額については、いくつかのケースについて検討し、なんらかの基本的な推計をこの段階では行なわないでおこう。ただし、設備用役投入の構成比は、「石油化学基礎製品」のそれと同じであると仮定する。これは<付表>の第3列に掲げてある。

次に、廃プラスチックの需要と供給にかかわる係数を推計することにしよう。これまでは、産業連関表に規定されて、原油投入係数を除くすべての数量表示は貨幣額で行なってきたが、この廃プラスチックに関しては単位を物量表示、すなわちtで表示することにする。まず、貨幣額表示の1単位を産業連関表と同じ100万円にした場合、廃プラスチック油化部門の1単位の再生石油の生産に必要な廃プラスチック量は30.5306tである。産業廃棄物としての廃プラスチックは各産業の副産物として産出されるが、その係数は次のようにして求めた。最初にも示したように1985年の産業廃棄物としての廃プラスチックは282万t産出された。これがわれわれの181部門にどのように帰属するかについては統計的なデータが存在しない。そこで、産業連関表に示されている各部門のプラスチックの投入の比率に応じて廃プラスチックが生み出されたと想定する。したがって、廃プラスチックの産業廃棄物量をこの比率に応じて配分したものがその産出高になり、それを各部門の稼働水準で割ることによって産出係数を求めることができる。家庭からの一般ゴミとしての廃プラスチックはそのまま掲げることにしよう。すなわち、1985年に家庭からの廃棄物は4345.0万tで、その10\%がプラスチックゴミであると仮定する。


3.2.5 油化部門を含まない解   (目次へ


まず、廃プラスチック部門、および各産業からの廃プラスチックの産出を含まない問題の解、すなわち必要原油量最小化問題とその双対問題の解を求める。そして、それによって理論的な枠組みのところで議論したように、上で推計した廃プラスチック油化部門の技術を評価するようにしよう。

問題を解くにあたって、産業連関表に掲載されている最終需要のデータは百万円単位で掲載されていることによって値が余りに大ききくなるため、線形計画を解く際の計算誤差の問題が生じるのを回避する意味で各値をすべて104で割っておくことにする。

必要原油最小化問題の解は、19569.5となった(注17)。この単位は、最終需要を104で割ったことを考慮すると、1万Klである。最終需要をえるために1億9570万Klの原油が必要とされることを意味している。ところで、産業連関表によると、この年の原油の総投入量は2億193万Klである(注18)。したがってわれわれの計算値の方が、少しだけ小さい値となっている(注19)。

さて、ここでわれわれが導出した原油価値によって、さきに推計的に求めた廃プラスチック油化技術を評価し、その技術を含めた問題の解を求める前に原油節約の効率性をとらえておくことにしよう。とらえ方としては、値を確定していない設備償却の規模について原油節約となる臨界水準を求め、その規模が予想される値からみていかなるものになるかをみることによって行なうことにしよう。そこで、簡単な数学的な準備をしておこう。いま、さきに出した32775という1tの廃プラスチック処理当りの石油再生額をsとする。さらにそれに対応して求めた、原料投入ベクトルをr、それらの財に対する価値ベクトルをv、資本設備の構成比ベクトルをkとするとしよう。産出のsは原油量の単位であるからそのままにして、原料投入の原油価値はrvとなる。また、設備の償却規模をかりに、tとすると、tkvは設備用役に関する原油価値である。したがって、投入原油価値と産出原油を均衡させる償却規模は、s=rv+tkvを満たすようなtである。ここで、関係するvおよびkは付表1に掲げてある。s,rv,kvをこれらの値から求め、tを導出すると、

t=735938.8

となる。すなわち、たとえば、1tの償却をする廃プラスチック油化技術がそれ以上の設備規模では原油の節約とはならない臨界的な設備償却規模は約73万6千円になるのである。この値はきわめて大きい。実際年1tという設備は考えられないから年1万tという設備を考えてみよう。これによって生産される再生石油は、3億2775万円という額になる。これに対する原料投入費用は5億4534万円になりすでにこの段階で付加価値を生み出すどころが赤字なのであるが、さらに、年間の設備償却額が74億にもなる設備であっても、社会的に天然原油投入を節約する技術として有効であることをこのことは示しているのである。実際の償却規模は、この再生規模で、2億円くらいになるというのが考えられるので、ここまで低い水準では社会的にかなりの高い原油の節約性が期待できることが分かる。


3.2.6 油化技術による原油節約量   (目次へ


次に、廃プラスチック油化部門を含む問題の解を求め、社会的な原油節約の量的な指標を求めることにしよう。その際問題になるのが、設備の規模をどれだけにするかである。われわれは上で、廃プラスチック油化部門の効率性の分岐点になるのが、設備の規模が年間の償却規模で735938.8円(原料1tの処理に対して)であり、それ以下であれば社会的な原油節約をもたらす技術となりそれを越えるような技術が必要になるものであれば、間接的な原油の消費によって結果的には原油を浪費する技術になることを明らかにした。実際には、原料処理1t当りの設備の償却規模は、総合的な調査による推計としては20,000円前後となる。しかし、ここでは設備の償却規模が1tの廃プラスチック処理に対して0、20,000、100,000、300,000、500,000、700,000、800,000円の7つの場合について調べてみた。全体の結果は表~T2のようにまとめられる。

償却規模 必要原油量 節約率 廃プラスチック 廃プラスチック
円/$t$ 10$^{4}$$Kl$ \% 稼働水準 価値
0 18792.0102 3.973 37.8854 0.673264
20,000 18812.5748 3.868 37.9193 0.655553
100,000 18894.7416 3.448 38.0556 0.584393
300,000 19102.7652 2.385 38.4005 0.404235
500,000 19314.5943 1.303 38.7517 0.220781
700,000 19530.3345 0.200 39.1095 0.033940
800,000 19569.5246 0.000 0.0000 0.000000

表(T2) 原油節約効率、稼働水準、廃プラスチック価値


この表から確認されることは、まず、必要原油量は償却規模が増大するにしたがってほぼ比例的に増大している。そして、理論的な検討から明らかになっていたように、臨界的な償却規模をこえた800,000円/tの場合には、必要原油量は廃プラスチック油化部門が存在しない場合と同じになってしまっている。同様に廃プラスチック油化部門を稼働することによる原油の節約率も償却規模の増大とともに低下している。われわれが予想する1t当りの償却規模は、20,000円である。この場合、廃プラスチック油化部門を稼働することによる原油節約量は756.95万Klで、節約率は約3.9\%である。

廃プラスチック油化部門の現実の稼働率は、最終需要を104で割っているので、線形モデルであるから同じ量をかけたものになる。いまわれわれが予想償却規模である20,000円/tの場合をみてみると、稼働水準は、37.9193 \times 104百万円であるが、この産出量を実際の産出である再生原油で測ると、868.26万Klになる。したがって、いまリサイクルのために直接・間接に必要な原油が0であるとするならば、この868.256万Klの原油が節約されることになる。しかし、それが756.95万Klにとどまっているということは、この差111.31万Kl (12.8\%) がこのリサイクルのために追加的に消費された原油ということになる。これは、予想以上に小さい。すなわち、リサイクルの効率が高いのである。

廃プラスチック部門の稼働水準は、償却規模が増大するにしたがって増大している。これは、廃プラスチック部門の効率が悪くなることによって投入が増大し、それを賄うために各部門の産出水準が増大し、さらに排出される廃プラスチックも増大することによるものである。そして、臨界償却費を越えたとたんに、廃プラスチック部門は稼働しない方が原油を節約することになるので稼働水準は一挙に0になる。

また、廃プラスチック価値はt当りの原油量を単位としている。すなわち、廃棄物1tが何Klの原油に値するかをあらわしているのである。廃プラスチックの価値は、償却設備規模の増大とともに一貫して低下し、臨界償却費を越えると、0になってしまう。すなわち、廃プラスチック油化部門が稼働しないために、超過供給となり自由財になってしまうのである。


3.2.7 廃プラスチック油化技術の普及   (目次へ


われわれの分析は、この廃プラスチック油化技術が付加価値の生産性の点では必ずしも効率的ではないが、これを稼働することは社会的にみて原油を高い効率で節約することが分かった。利潤追求が原則であるこの経済のもとでは、企業が利潤を求めてこの新技術を採用することは期待できない。では、どのような方法でこの技術は普及していくのか、あるいは普及させていかなければならないのだろうか。いくつか考えられる方向を示してみよう。

(1) 企業が併設の廃プラスチック処理設備として導入する。すなわち、廃プラスチックを大量に生産する企業が、廃プラスチックの廃棄に対する世論に配慮して、工場の併設設備として導入する。

(2) 収益性がさしあたって問題とされない、自治体などの公共的な場における廃プラスチックの処理設備として導入される。

(3) 廃プラスチック油化技術を導入した企業に対して、必要な付加価値をもたらす程度の補助金を政府がだす。

われわれの分析は、こうした非市場経済的な方向の対応がされる場合に必要となる、物質的な効率性評価の方法、実証的応用例を明らかにしている。

脚注
(1)『厚生白書1991年版』による(もどる
(2)田中勝、高月絋著、『現代のゴミ問題−技術編−』(中央法規社、1983年刊)の「(V) プラスチックの話」を参照。(もどる
(3)厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室編、『産業廃棄物ハンドブック−1990年版−』(ぎょうせい、1990年刊)よりとった。(もどる
(4)前掲『現代のゴミ問題−技術編−』参照。(もどる
(5)付加価値は完全に価格体形に依存した値であるが、ここでのような石油でみた剰余の存在は物量的、技術的に決まる値だからである。(もどる
(6)ただし、ここではプラスチック廃棄物の処理費用を考慮していない。これを考慮すれば、廃プラスチック油化技術は付加価値の点でも必ずしも否定的な結果にならない可能性もある。この点は、油化技術の推定の結果にもとづいて後に再び検討する。(もどる
(7)以下の理論的な展開は、第2章2.2節のモデルを発展させたものとなっている。そこでは、産業部門数と財数を完全に一致させたいわゆるレオンチェフモデルが用いられたが今回はそれをさらに発展させ、結合生産をあつかうことのできるフォン・ノイマン型のモデルにしている。(もどる
(8)ここに、フォン・ノイマン型の技術モデルの基本的特徴があらわれている。フォン・ノイマン技術については、前節も参照せよ。(もどる
(9)社会的な経済的構造に関する問題を、こうした最小化問題としてとらえることに疑問が提起される場合がある。われわれの資本主義経済には、こうした完全な計画を行なう主体も、その能力をもった主体も存在しないからである。しかし、われわれの問題は技術評価であり、ここでとり上げている技術が社会的にみて原油節約効率を有するかどうかが問題であり、実際の計画化そのものが問題になっていないことに注意が必要である。フォン・ノイマン技術のもとでは、レオンチェフ技術とは違って、条件式を等号で結ぶことによって解を求めることができない。われわれが最小化問題という定式化を採用しているのは、この制約のもとで一つの妥当な均衡点をえようという分析の目的のためである。また、現実には、われわれのモデルの中にはめ込まれている結合生産、あるいは複数技術はきわめて少ない範囲にとどまっている。したがって、目的の変動が与える解への影響はきわめて小さい。このことは、他の目的関数を用いて確かめている。また、この問題は次に与えるような双対的な価値体系を有しているが、これは第2章で述べたような経済に外部から持ち込まれなければならない価値体系をあらわす。すなわち、現実の市場価格を規定している成長指向的な価値体系に対して、資源節約を目的とする価値体系として、人々の行動基準として提示されなければならないものなのである。(もどる
(10)双対定理については前節3.1.4を参照せよ。(もどる
(11)最終需要を通して廃棄されるプラスチックには、消費の他にも設備の廃棄などを通してもあらわれる可能性があるがここでは無視する。(もどる
(12)これは、ジョージェスク=レーゲンによって、強く主張された命題「有限時間内で、完全なリサイクリングは不可能である」によっている。前掲、『経済学の神話−エネルギー、資源、環境に関する真実』などを参照せよ。(もどる
(13)この廃プラスチック油化部門を含まない双対解、すなわち原油価値体系は単にこのような廃プラスチック油化部門の原油節約効率を評価するだけでなく、あらゆる技術の評価基準となる。すなわち、いかなる部門においても新規技術が社会的な意味で原油節約技術となるためには、この原油価値体系で評価して、現行技術の原油総価値よりも低くなっていることが必要なのである。(もどる
(14)この価値体系の本質的な機能については、第2章において詳細に検討した。(もどる
(15)技術のその他の概要については、鷲田豊明、「廃プラスチック油化技術の原油節約効率」、『経済理論』、第244号、1991年、pp.17-44、第2節を参照せよ。(もどる
(16)ここで再生石油価額は1985年の原油価格で換算している。また、この数値から分かるように、2万円強の負の付加価値となっているが、廃プラスチックの1t当りのコストが約2万円とすればこの分が相殺されることになる。しかし実際は、設備償却費をさらに上乗せしなければならない。(もどる
(17)改訂シンプレックス法のプログラム作成にあたっては、坂和正敏、『線形システムの最適化<一目的から多目的へ>』(森北出版、1984年刊)を参照した。(もどる
(18)これらの計算にあたっては第2章の計算と同様に、1985年当時の平均原油価格を28\/バレル、為替レートを248円/\と設定している。(もどる
(19)この最適値に対する解ベクトルの分析は前掲、「廃プラスチック油化技術の原油節約効率」を参照せよ。(もどる

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