目次
   4.3 節 太陽光発電のエネルギー効率
    4.3.1 エネルギーの回収可能性
    4.3.2 エネルギー回収年の測定法
    4.3.3 太陽光発電システムの技術推計
    4.3.4 エネルギーの間接的総投入量の計算
    4.3.5 太陽光発電システムのエネルギー回収年と評価


4.3 節 太陽光発電のエネルギー効率   (目次へ



4.3.1 エネルギーの回収可能性   (目次へ


前節の最後に、太陽光発電のエネルギー効率について定義を与えたが、一般に太陽光発電は初期の設備投資に大きさに比べて経常運転のための追加的コストが少ないことから、エネルギー効率を評価する場合、エネルギーの回収可能性あるいはエネルギー回収年という基準が用いられることが多い。このエネルギー回収年という基準は、前節のエネルギー効率と基本的に同じ概念であり、相互に簡単に変換可能である。以下では、このエネルギー回収可能性の厳密な定義を与え実際の太陽光発電設備に関してこれを求めることにしよう。

非更新性のエネルギー資源は一定量、たとえばIeだけ使用したならそれが更新されることはない。エネルギー資源のストックがIeだけ減少して、それが回復されることはないのである。更新性のエネルギー資源には、Irだけ使用した場合、それが回復される時間が事実上問題にならない太陽光のような場合と、バイオマスのようにストックの回復にある一定の時間がかかる場合がある。後者のような場合に、1年間に使用した量Irのストックを回復するのにかかる年数をt(Ir)とすると、t(Ir)>1の状態で、毎年使用し続けると、ストックは年々減少することになり、非更新性エネルギー資源の使用と同じ状態になってしまう。この場合、Irは少なくともt(Ir)\leq 1の範囲におさえられなければならない。そして、以下われわれは、更新性資源の使用量はこの条件を満たしているものであると想定する。

ここで、自然に存在する状態に近い形のエネルギーを一次エネルギーとし(注1)、人間が利用することが可能なエネルギー形態を二次エネルギーとしよう。いま、一次エネルギー資源を利用可能な二次エネルギー資源に変更するための設備を生産するのに直接・間接の使用したエネルギー資源の総量をSt、そのうち非更新的なエネルギー資源の量をSeとしよう。このエネルギー変換施設が、毎年の稼働に直接・間接に必要となるエネルギー資源、すなわち運転のためのエネルギー資源の総量をMt、同じく非更新性のエネルギー資源の量をMeとしよう。そして、毎年生産される二次エネルギーの量をEとしよう。われわれはこれらをすべて熱量単位(cal)で測ることにする。これらの前提のもとで、このエネルギー変換施設の建設のために要したエネルギーの回収という問題を考えてみよう。

エネルギー回収年は、毎年ネットで生産されるエネルギー量で設備の投下エネルギー量を割ればよい。ところで、この純エネルギー生産量について、E-MtとE-Meという二つの定義が可能だが、前者はわれわれにとって本質的な意味をもたない純エネルギー生産量の定義である。というのは、すでに述べたようにわれわれにとって更新性エネルギーと非更新性エネルギーの区別は決定的に重要であるが、われわれの定義の仕方から、この変換が更新性一次エネルギーの変換である場合、このEは太陽光からの生産であるか、ストックを減少させない範囲の投入である。したがって、更新性エネルギーの間接投入は差し引かれていなければならない。純エネルギーの生産量は、後者で定義しなければならないのである。同じような意味で、設備のために要したエネルギー資源も、非更新性のものSeに限定されなければならない。

さて、ここでまず明らかになることは、非更新性エネルギーの転換の場合は、決してエネルギーを回収できないということである。なぜならば、変換の過程で新たにエネルギーが発生することはないから、E-Meはゼロか負になるからである。一方、更新性エネルギーを直接投入にしたエネルギー変換の場合、Meは間接的に必要とされるエネルギーであるが、これがEと同じかそれよりも大きくなるという必然性はない。すなわち、更新性エネルギーの変換の場合、回収可能性が存在するのである。そして、このエネルギー回収年は、Se/(E-Me)で定義される。

ここで、このエネルギー回収年のもっている意味、および問題点について考える。まず、設備の耐用年数との関係を考えておかなければならない。たとえば、設備は平均して20年の耐用年数をもっていたとしても、回収年が50年であれば、実際にはエネルギーを回収できないといわなければならない。一方、同じ耐用年数で、エネルギー回収年が10年であれば、投下された非更新性エネルギー以上のエネルギーを生産する。ところで、回収年が耐用年数よりも長ければそのエネルギー変換は行なわない方がよいようにも思える。しかし、この二つの年数の比較はこうした有効性の基準としての役割を果たすことはできない。というのは、もしこの基準が有効ならば回収不可能な非更新性エネルギーを直接の投入源としたエネルギー変換は有効ではなくなるはずである。しかし、実際にはこのエネルギーの回収不可能性という明白な事実にも関わらず、現在、社会的な必要性は明確に認められているからである。一次エネルギーと二次エネルギーは、ここでは共通の指標である熱量で測ることによって異質性を除いてしまうが、実際は異なった財であり、有用性が違うものなのである。したがって、われわれが1Kcalの熱量をもたらす米を生産するのにエネルギー資源を2Kcal投入するからといって、エネルギー資源の方を食べるわけにはいかないのと同様に、こうしたエネルギー的非効率性を甘んじて受け入れなければならない面をもっているのである。

では、回収年と耐用年数との比較が意味がないかというと、そうでは決してない。耐用年数が回収年より長い場合、エネルギーの純生産量があらわれる。もちろんこれは物理的な意味での純生産量ではなく、経済的な意味でのものである。したがってまず、前節で定義した太陽光発電の正味エネルギー効率は、この設備耐用年のエネルギー回収年に対する比によってもあらわされることがいえる。さらに、このエネルギーの純生産量が発生するか否かは、実はエネルギーの自立性という、回収可能性よりもはるかに高い効率性基準を満たすかどうかの絶対的前提としての意味をもっているのである。いま、更新性エネルギーの転換設備が回収年をこえて耐用年数が終わるまでに生み出す純エネルギーの総量をNeとしよう。仮に、この更新性エネルギーの転換設備のために必要な非更新性一次エネルギーが、転換された二次エネルギーと完全に代替可能だとすると、Ne>0であれば、この設備はみずからをエネルギー的に再生産しながら、外部にエネルギーを供給し得ることになる。すなわち、この更新性エネルギーの転換技術は限定された意味で自立的なのである。確かに、現状の社会的な技術体系を前提にする限り、こうしたことは起こりえない。しかし、一定の割合で投入一次エネルギーを生産された二次エネルギーで代替できるようになることは、将来にわたってありえないことではない。はっきりしていることは、Ne<0である限り、こうしたエネルギー的な自立は事実上不可能だということである。


4.3.2 エネルギー回収年の測定法   (目次へ


太陽光発電は更新性の一次エネルギーである太陽エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムであり、潜在的に回収可能性を有する。本節では、このエネルギー回収年の実際の測定を行なう(注2)。そのためにまず、今回の測定方法の理論的枠組みを明確にしておこう。われわれはエネルギーの間接的な投入量を知るために、産業連関表を用いる(注3)。

まず、問題のもっとも簡単な定式化からおこなってみよう(注4)。いま、社会の財および生産部門が同じ数nだけ存在するとしよう。すなわち、各部門は一つの財のみ生産し、その財が生産されている唯一の部門であるとする。Aを、その第i行、第j列の要素がaijであるような、n \times nの行列であるとする。そしてこのaijは、一年間に第j財1単位の生産に必要な第i財である。もちろん、この「必要な財」の中には、原材料として必要とされる財ばかりではなく、設備として必要な財も含まれている。但し、設備は1年で使われなくなるわけではないので、「用役」(service)という概念を用いて、1年当りの設備用役の投入量に変換しておく。さらに、太陽光発電による二次エネルギー生産に必要な設備の総投入量を、n次元ベクトルcであらわすことにしよう。すなわち、その第i要素ciは、設備のための第i財の投入量である。いま、非更新性の一次エネルギーの種類がqあるとして、rij \; (i=1,2,\ldots,q; j=1,2,\ldots,n)を第i行、第j列要素とする行列をRとしよう。rijは第j部門の単位生産に必要な第iエネルギーの投入量をあらわす。このとき、cを生産するための各部門の均衡産出ベクトルxcは次の式を満たすベクトルである。

xc=Axc+c

したがって、この太陽光発電設備の各一次エネルギーの間接的な投入量ベクトルはRxcとなる。さらに各一次エネルギーの単位量当りの熱量を示すq次元行ベクトルをhとすると、C = hRxcが一次エネルギーの投入量(cal)をあらわす。さらに、毎年の運転のために必要な財の投入ベクトルをmとすると、このための間接的な一次エネルギー投入は、

xm=Axm+m

を満たす、xmについて、M = hRxmが毎年の運転に必要な間接的一次エネルギーの総量ということになる。また、毎年生産される電気エネルギーを熱量表示したものをEとすると、エネルギー回収年Tは次のようになる。

T=(C)/(E-M)

基本的には以上の方法であるが、実際に産業連関表を用いる場合には輸入の問題を適切に処理しなければならない。この点で第一に考慮すべき点は、各部門の生産のためには、国内財ばかりでなく輸入財も投入される。現実には輸入財もさまざまあるが、こうした投入財としての輸入財は集計(集計の単位は貨幣)して一つの特殊な財として表すことにする。gを、その第j要素が第j部門の1単位の生産に必要な輸入財量を表す行ベクトルとしよう。輸入はまた輸出を必要とする。われわれは、輸入と同額の輸出が必要となる、すなわち貿易収支は均衡すると想定しよう。いま、輸入1単位に対して必要となる輸出のベクトルをeとしよう。そして、輸入単位数をxn+1とする。

第二には、資源の輸入に関するものである。外部から投入される一次エネルギー資源には、国内財と外国財がある。また、海外から輸入される二次エネルギーも、特殊な一次エネルギーとして扱われなければならない。

まず、第二の点については、上で議論した R がこれらの点を考慮したものに拡張されていると考えよう。第一の点については、上で定式化した均衡産出を求める式を発展させる必要がある。この点を、設備投入ベクトルcの生産に必要な均衡産出ベクトルを求める場合について行なおう。まず、財の需給均衡式は、

xc=Axc+exn+1+c

となる。さらに貿易収支の均衡式は、cn+1を太陽光発電設備のために直接必要な輸入財総量とすると、

xn+1=gxc+cn+1

となる。さらにこれら二つの式を行列で表現すると、

\left(

I-A & -e \\-g & 1

\right)\left(

xc \\xn+1

\right)=\left(

c \\cn+1

\right)

そして、均衡産出を求める式に変形すると、

\left(

xc \\xn+1

\right)=\left(

I-A & -e \\-g & 1

\right)-1\left(

c \\cn+1

\right)    (E1)

となる。もちろん、現在の社会的な技術体系は、この均衡産出が非負ベクトルとなるくらいに十分な水準の高さをもっている。以上の理論的な枠組みのうち、均衡産出量を除くすべての係数が事前に与えられなければならない。そして、その中でも最も重要なものは、太陽光発電設備の投入ベクトル c および cn+1 である。

以上のように輸入を考慮することは次のような意味を持っていることに注意することは非常に重要である。すなわち、われわれは資源の投入を日本国内に入ってくる段階でとらえている。そのことは、それまでに投下されたエネルギーに対してなんの考慮も払っていないのかというと、そうではない。すなわち、このモデルでは輸入と同額の輸出を行なわなければならない構造になっているので、結局その輸出を行なうのに直接間接に必要なエネルギー投下の必要性を考慮していることになる。従って、日本国内に入る段階までの分は貨幣で計った費用によって、間接的なエネルギー投入分を考慮していることになるのである。この点は、問題にされる可能性もあるが、国内にはいってくる以前も産業連関分析にによって行なうことは不可能である。この段階については積み上げ方式を用いることも考慮されるべきであろう。


4.3.3 太陽光発電システムの技術推計   (目次へ


1985年の産業連関表において、電力生産部門は火力発電、原子力発電は独立した部門として計上されているために、その投入状況を推計することは困難ではない。しかし、太陽光発電部門はいまだ社会的に十分安定した部門を構成するまでに至っていない。したがって、われわれは現在の技術状況を独自に推計しなければならない。

この技術の推計において最も注意すべき点は、発電システムの特殊な要素をできるだけ一般的な要素まで分解することである。たとえば、太陽光発電システムのもっとも重要な要素である太陽電池パネルも産業連関表の上では183部門統合表ではその他の電気機器部門、基本表でもその他の軽電機器部門に統合されてしまっている。しかし、現状では決して一般的ではない太陽電池パネルを、この統合された部門の生産物としてしまうのでは現在の技術状態を適切に反映させることはできない。パネル以外の設備としても、太陽電池を支える架台などもシステム特有の投入であり細かい取り扱いが必要である。そこで、われわれは太陽光発電システムの設備投入を太陽電池パネル技術とそのほかの設備の投入に分けて推計した。

シリコン太陽電池には、結晶系のものとアモルファス系のものとがある(注5)。われわれは、この中で比較的新しく、製造工程の単純さと素子の厚さが薄いために省資源であるなど、すぐれた特徴で近年特に注目されているアモルファス系太陽電池パネルに注目しよう。太陽電池は、一般にn型、p型の半導体を組み合わせて光電効果を利用して電気エネルギーをえるものであるが、アモルファス系の特徴はガス状のシリコン(モノシランガス、SiH4など)を、電界のかかった真空の中でガラスあるいはステンレスなどの基板に蒸着させることによってこれらの半導体膜を形成するところにある。パネルが製造されるまでには、さらにその前後での電極の形成、配線、モジュール化などの過程を経る。

こうした技術の投入を推計するための出発点として、「1987年度新エネルギー・産業技術総合開発機構依託業務成果報告書、太陽光発電システム実用化技術開発、アモルファス太陽電池の実用化研究」(新エネルギー財団、1988年3月)(注6)における、年間製造規模別の投入費用の試算結果を用いた。太陽電池はどれだけの量産規模にあるかによって費用構成が変わってくるために、量産規模ごとの推計が行なわれている。四つのステップが考えられ、第一ステップ(1990年)=10Mw規模/年、第二ステップ(1995年)=50Mw規模/年、第三ステップ(2000年)=100Mw規模/年、第四ステップ(2005年)=1GW規模/年のそれぞれについての推計が行なわれている。われわれは以下で、基本的に現状の技術水準を最も反映していると思われる、第一ステップの場合について調べた。その際、太陽電池の変換効率は10\%と想定した。

また、われわれの目的は、単なる太陽電池パネルの回収年の計算ではなく、実際の電力供給システムとしての太陽光発電システムのエネルギー回収年である。これについては、新エネルギー・産業技術開発機構の依託研究として行なわれた「1Mw集中型太陽光発電システム開発」に関するデータを用いることにしよう(注7)。われわれは、トータルシステムとしての太陽光発電システムの設備およびその電力の入出力特性については、このデータを基礎にする。したがって、すでに議論してきた太陽電池パネルは10Mw規模なので、われわれの議論は、年間に1Mw規模の発電システムを10建設した場合のエネルギー回収年ということになる。もちろん、研究的に建設された設備と実用的なものとの差異はまぬがれないが、現状では他に参照可能なものが存在しない。ただし、この設備はあくまでも研究用の試験的設備であり、そのための付加的部分が存在している。そこで、今回は、発電電力を送電するのに必要な設備を計算の対象とした。したがって、研究用の建物、あるいは試験装置類は除いている。

以上の資料にもとづいて推計された太陽発電システム設備の総投入ベクトル、すなわち(E1)におけるcが<付表>の第4列に示してある(注8)。


4.3.4 エネルギーの間接的総投入量の計算   (目次へ


推計した技術的な投入を実現する均衡産出ベクトルを求めることが次のステップとなる。ここでは、太陽光発電システム建設に直接必要な輸入財はないと想定し、cn+1 = 0としよう。均衡産出ベクトルを求めるためには(E1)の逆行列を求めなければならない。ただし、この逆行列は、すでに第2章の必要原油の体系を求める際に計算したものと同じでよい。すなわち、ここでは産業の部門分類とまったく同じ想定をしているのである。

この逆行列に、先に求めた太陽光発電システムの投入ベクトルをかけることによって均衡産出ベクトルが求められる。ところで、c ベクトルの和、すなわち太陽光発電システムの投入ベクトルの合計(貨幣額表示であるためにこのことは可能である)は8544.304である。一方、均衡産出ベクトルの合計は29013.647となった。前者を1とすると、後者は約3.4である。すなわち、太陽光発電システムの投入を実現するために、生産乗数効果によってその3.4倍の規模の生産が行なわれなければならないことになることを示している。すなわち、一般に積み上げ方式で軽視される間接投入量の効果はかなり大きなものであるといわざるをえない。

以上で求めた各部門の均衡産出に対して各エネルギー資源の投入量を求める。エネルギー資源の種類はできるだけ細かい方がよいが、183部門統合分類では粗いので財分類基本表の分類で行なう。もちろんその財の投入部門分類は183(われわれの場合は181)部門でなければならない。すなわち、産業連関表の基本表からわれわれの統合分類の部門が、基本表分類のエネルギー資源をどれだけ投入しているかを求め、それを産出量で割ることによって係数化し、それと先に求めた均衡産出とのベクトル積をとることによって各エネルギー資源の必要投入量を求めるのである。ただしこの段階では値はすべて100万円単位である。



価格 単位 熱量 国内 輸入 資源名
0.0215/$t$ 77 4312.569 0.000 原料炭(国産)
0.0142/$t$ 76 0.000 74584.586 原料炭(輸入)
0.0145/$t$ 58 4535.490 0.000 一般炭等(国産)
0.0109/$t$ 62 0.000 11002.659 一般炭等(輸入)
0.0423/$Kl$ 92 432.791 70115.947 原油
0.0622/$t$ 130 1068.716 17180.849 天然ガス
0.1192/$Kl$ 84 11.910 揮発油
0.0654/$Kl$ 87 425.613 ジェット燃料油
0.0550/$Kl$ 89 18.447 灯油
0.0784/$Kl$ 92 0.000 軽油
0.0541/$Kl$ 93 481.615 A重油
0.0488/$Kl$ 97 5223.940 B・C重油
0.0445/$Kl$ 80 7642.347 ナフサ
0.0581/$t$ 120 4573.756 液化石油ガス
0.0239/$t$ 72 74.426 コークス
10349.566 191336.095 合計

表(T1) エネルギー投入量への変換




ただし、これらは、貨幣額で表示されているので、各資源財の価格を用いて物量単位にし、さらにそれらを熱量で計り直すという作業を行なわなければならない。これらの換算のために用いられた価格及び熱量単位は表~T1の1,2,3列にあらわされている。ここで、熱量は1,000Kcal単位である(注9)。

これによって求めた熱量単位のエネルギー資源投入量は表~T1の6、7列のようになる。ただし、熱量はすべて10\times6Kcal単位である。また、「揮発油」から「コークス」までは二次エネルギーであり、国内財のそれらをカウントすると、二重計算になるので除外している。ただし、それらの輸入分は計算にいれなければならない。したがって、10Mw級太陽光発電システムの建設に間接的に必要とされる国内資源、及び輸入資源のエネルギー投入量の総計は201.68567 \times 109 Kcalとなる。


4.3.5 太陽光発電システムのエネルギー回収年と評価   (目次へ


エネルギー回収年を計算するためには、すでに示した理論的な枠組みからも明らかなように、さらに毎年の運転のために経常的な投入による間接的エネルギー投入の総量と生産されるエネルギーの総量が明らかにされなければならない。ところで、太陽光発電システムは、他の発電システムとは異なり、経常的に経済から投入しなければならない一次エネルギー源が不用なばかりか、タービン、発電機などの稼働部分が存在しないために、経常的な投入がきわめて小さく、維持のためのコストがかからないという特徴を持っている。また、そうであるからこそ「エネルギー回収年」という指標が太陽光発電システムにとって注目されるのである。したがって、われわれは経常的な投入としては最も大きな要素である所内電力だけを考慮することにしよう。

われわれの太陽光発電システムにおける発電電力のフローについては、先の1Mw研究システムの実測地を採用することにしよう。このシステムは、パネルの規模が実質的には1.2Mwになっているので、最終的な電力の純産出量を測る場合には、この点を考慮しなければならないが、まず、太陽電池からの電力がどのように流れているのかをとらえておこう。このシステムの実測によると、太陽電池から集められた電力の年間総量は1,565,610Kwhとなっている。これは、基本的に太陽電池容量を1.2Mwとしている点、および太陽電池パネルの平均変換効率が8.8\%である点を考慮して修正されなければならない(注10)。1$Mw$で変換効率が10\%の場合に変更するとこの数字は、1,482,585Kwhとなる。ここからインバータロスを4.9\%、制御電力を55,437Kwh、昼間所内電力量を40,395Kwhとして差し引くと、送電可能電力量は1,314,107Kwhとなる(注11)。これを10倍したものが、10$Mw$に対応する発電電力量である。さらに、電力の発熱量に関する国際単位は、860Kcal/Kwhであるから、熱量換算の年間エネルギー純生産量は、11.301316 \times 109 Kcalとなる。したがって、これで設備のエネルギー資源総投入量201.68567 \times 109 Kcalを割ると、

エネルギー回収年=17.85年

となる。

この、17.85年のエネルギー回収年は、単なる太陽電池パネルだけでなくトータルな発電システムを考慮し、そして間接的なエネルギー投入のすべてを考慮しながら通常の設備の耐用年数と比較可能な範囲に収まっている点で画期的な数字といえる。すなわち、一般に太陽光発電設備の耐用年数は、20年と議論されている。したがって、このことを前提にすれば、われわれの測定した太陽光発電システムは耐用期間内に、自らの設備に必要なエネルギーすべて回収しうることになるのである。化石燃料による発電システムでは、エネルギーは永久に回収できないにもかかわらず、この太陽光発電システムの場合、設備の耐用期間内にすべての投下間接エネルギーを回収できる可能性がある点で、画期的なものなのである。前節で定義した、太陽光発電の正味エネルギー効率は、20/17.85=1.12で、112\%ということになるのである。

すでに述べたように、発電システムはエネルギーを電力という利用可能な形態に変える点で、エネルギーそのものの回収は通常第二義的な意義しかもちえない。したがって、この太陽光発電システムの場合、そうした利用可能な電力を生産しながら、エネルギーの回収が可能になるという点で、現状の技術の範囲でもエネルギー効率という点で十分実用性をもっているといわなければならない。すなわち、貨幣価値で測った費用と収益の関係では十分な利用価値をもちえないとしても、エネルギー効率の点では十分に高い利用価値をもっているといわなければならないのである。

脚注
(1)人間の手が多少加えられたエネルギー資源も一次エネルギー資源と呼ぶ。(もどる
(2)太陽光発電のエネルギー回収年については、電力中央研究所の内山洋司氏が積み上げ法によって計算している。それによると10年を切るものになっている。内山洋司、山本博巳、「発電プラントのエネルギー収支分析」(電力中央研究所報告、Y90015, 1991年)。太陽光発電のエネルギー収支分析は『自然エネルギーと発電技術』(科学技術庁資源調査会、大成出版社、1983年)も参照せよ。後者は前者の数量的な基礎でもある。(もどる
(3)いわゆるエネルギー・アナリシスでは産業連関表を用いる方法と、積み上げ方式と呼ばれる方法がある。詳細は、『エネルギー・アナリシス---エネルギーからみた社会経済活動の計量分析』(茅陽一編著、電力新報社、1981年刊)などを参照せよ。(もどる
(4)以下の定式化は、記号も含めて第2章、2.2節で議論したものと基本的に同じである。必要に応じて参照せよ。(もどる
(5)これらの点についての詳細は『太陽電池とその応用』(桑野幸徳著、パワー社、1985年刊、Y.Hamakawa, ``Solar Photovoltaics--Recent Progress and Its New Role", {\em Optoelectronics}, Vol.5, No.2, 1990. 同、「アモルファスシリコン太陽電池の高効率化」、『金属』、1991年3月号、などを参照。(もどる
(6)以下、報告書はこの1987年度の他に、1989年度、1990年度のものも用いている。(もどる
(7)高橋昌英氏が「1Mw級太陽光発電システムの設計とその実証に関する研究」(1990年11月)という論文にまとめている。(もどる
(8)推計方法の詳細については、鷲田豊明、「太陽光発電システムとエネルギー回収年」、『経済理論』、245号、1992年刊、pp.15-47、を参照せよ。(もどる
(9)表中の原油、天然ガス、液化石油ガス価格は1985年の総輸入量を総輸入価額で割って求めた。『外国貿易概況』(1985年12月号、日本関税協会発行)参照。発熱量は前掲『総合エネルギー統計』よりとった。(もどる
(10)前掲、「1Mw級太陽光発電システムの設計とその実証に関する研究」、p.69参照。(もどる
(11)ここで、制御電力と、所内電力は実際の発電規模が1.2Mwである点を考慮したデフレートを行なっていない。(もどる

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