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環境税と消費者選好のリンケージ効果について
2005年5月17日公開
2005年10月1日修正
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概要
 

 環境税などの環境経済政策の評価をする場合、これまでは、与えられた環境のもとで企業や消費者などの経済主体の反応の結果からくる政策効果を分析していた。理論的には、その場合、環境の変化と消費者の選好を分離可能なものとする場合が多かった。そのために、政策効果としての環境の変化が、さらに消費者の選好を変化させるという側面が見落とされがちだった。今日、グリーン・コンシューマーやグリーン調達が大きなテーマになっている。これは、環境意識を通して環境が消費者の選好に影響を与えることを意味している。

 本論文では、このリンケージ効果を理論的に、また定量的に分析する。具体的には、環境が消費者の選好に与えるリンケージ効果を、まず、理論的に分析する。基本的にそれは、効用関数において複数の一般財と環境の水準(大気汚染、温暖化、生態系など)を分離不可能とすることから始まる。これまで、環境を含む効用関数の理論的分析は、環境クズネッツ曲線、二重の配当論、環境と貿易の関係などの分野で数多く行われてきたが、環境と一般財が分離可能になっているために、環境の変化が消費者選好に影響を与える側面を無視する場合が多かった。ただ、実際に分離不可能とすると、理論的には様々な場合が出てきてしまう。環境の改善が、より環境の改善を促すような消費者選好を生み出す場合も、逆に、環境の改善を相殺するようなネガティブな効果を生み出す場合もある。

 そこで、地球温暖化税を対象に、応用一般均衡モデルを用いてシミュレーションを行った。環境の改善を温暖化ガスの国際目標達成率にして、環境と一般消費財が分離不可能な効用関数に組み込み、二酸化炭素排出1トンあたり10000円の課税をするとした。その結果、直接の排出削減量は9800万トンになる。それは京都議定書目標削減量の約60パーセントを達成することを意味する。さらに、この目標達成率という環境改善によるリンケージ効果によって、消費者がさらに反応する。このリンケージ効果による追加的削減量は280万トンになった。最近政府のまとめた京都議定書目標達成計画における、民生部門の省エネルギー法によるエネルギー管理の徹底からくる削減量に匹敵するものである。リンケージ効果は無視しがたい水準で存在することが確かめられた。今後、こうした分離不可能性を前提とした研究がより徹底的に行われる必要があることが明らかとなった。