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目次
  第 3 章 定常循環系のモデル分析
   3.1 節 定常循環系の技術的条件
    3.1.1 廃棄物の結合生産と再資源化部門
    3.1.2 定常循環系の理論モデルと純生産条件
    3.1.3 定常循環系の資源散逸条件
    3.1.4 資源、廃棄物価値の正値条件と資源散逸条件
    3.1.5 資源転化体系による資源散逸条件の導出

第 3 章 定常循環系のモデル分析   (目次へ
第1章で指摘したように、グローバルな生態循環と整合的な経済循環を回復するためには、われわれの経済内部における資源循環機能がきわめて重要な意味を持っている。経済学はこれまで、この問題を十分に取り扱うための理論的枠組みを提供してこなかった。本章では定常循環系の基本的な理論モデルを提示するとともに、その中で決定的な意義を持つ再資源化部門が稼働するための条件の分析、生産と消費の総過程の中での資源の物理的循環を扱うシステムの提起、およびそれと通常の需給体系、価値体系の関連なども明らかにする。そして、さらにこのモデルを実証的なものに応用した、廃プラスチック再資源化技術の物量的な効率性の検討を行う。
3.1 節 定常循環系の技術的条件   (目次へ
3.1.1 廃棄物の結合生産と再資源化部門   (目次へ

経済循環を回復するためには、資源を経済の内部で最大限再循環させることが重要な意味を持っている。資源の再循環を増大させることは、これまで廃棄物として処理したものを再資源化させることである(注1)。この廃棄物は、ほとんどあらゆる経済活動の場で、あらゆる経済主体によって行われている。そのうち、生産の場で生み出される廃棄物は、必ず何らかの主生産物の副産物として生み出されている。たとえ何らかの廃棄物処理産業であっても、それらは廃棄物処理というサービスが生産され、最終的に自然の中に廃棄される物質が副産物となるのである。すでに指摘しているように、これまではこれらの副産物としての廃棄物は無価値であるがゆえに、廃棄物は生産された時点で経済のいかなる対象でもなくなってしまう。したがって経済学も、こうした形での結合生産を十分に取り上げてこなかった。しかし、生産過程で物的廃棄物が生じるのは一般的であり、また今日のゴミ問題に象徴されるように、この副産物がわれわれにとってきわめてやっかいなものになるくらいに巨大化している。

生産過程における廃棄物は、さまざまな種類のものが発生する。したがって、廃棄物を副産物と考えた場合、ほとんどすべての生産過程で行われている結合生産はきわめて複雑なものとなっているのである。しかし、この結合生産を考えることは、理論的な扱いを著しく困難にする側面をもっている。われわれは、第2章でマクロ的な目的に基づく価値の機能を議論する場合に単純化のために、経済の中での基準的な機能を果たすものとして、結合生産を考慮しない技術体系のモデルを採用した。しかし、それは一般には廃棄物が生産された時点で経済の対象とならなくなる現在のような経済のもとでのみ許される単純化であり、資源の再循環を表現する場合には大きな誤差を覚悟しなければならなくなる(注2)。

この節では、資源の経済内部の再循環に関する理論的問題を考察するが、その際、生産過程における廃棄物の結合生産を明示的に含んだ可能な限り単純なモデルを用いる。

この定常循環系のモデルにおいて特有の部門は再資源化部門である。すなわち、各部門あるいは家計から排出された廃棄物を再び利用可能な資源に変換する部門である。ここではこうした部門が加わることによって生じる問題を、循環系が純生産物を発生し得るかどうかという純生産条件、そしてジョージェスク=レーゲンによって打ち立てられたいかなる循環系も資源を完全にリサイクルさせることは不可能であるという(注3)、資源散逸の不可避性をあらわす資源散逸条件という二つの条件に焦点を当てながら考察する。この純生産条件と資源散逸条件は定常循環系をとらえる上でのもっとも基本的な条件なのである。

さらにわれわれは、これまでほとんど考えられたことが無いと思われる特殊なモデル、資源転化体系によってこの資源散逸条件をとらえることができることを示す。われわれは、通常の財の需給均衡条件から構成される物量体系、そしてその双対体系としての、各部門における価値保存式から構成される価値体系の他に、第三の体系としてこの資源転化体系を提示する。この体系は、投入された資源が、価値的にではなく物理的に生産物に保存される状況を表現する体系である。したがって、資源に関して投入価値が生産物にどれだけ帰属させられるかといった価値評価の問題とは質を異にしている。われわれは、この資源転化体系を提示し、それが資源散逸条件をとらえる上でどのように機能するかを示すだろう。

本節は、こうした定常循環系に関わる基本的な問題を解析することによって、現実の経済統計データを用いた実証分析の理論的基礎を与えることをねらいとしている。
3.1.2 定常循環系の理論モデルと純生産条件   (目次へ


われわれは問題を、第2章で用いた工業部門と農業部門からなる古典的な二部門モデルに再資源化部門を加えた3部門モデルにおいて考察しよう。さらに、簡単化のために経済に投入される天然資源は一種類のみであると想定する。このモデルの構造をあらかじめ図示すると図~F1のようになる。

\vspace*{7.5cm}\caption{工業・農業・再資源化の三部門モデル}   (F1)

第2章2.1節の資源価値体系の議論のために用いた技術と消費構造をそのまま保持するとともに、再資源化部門(R)の導入によって、モデルの本質的な展開を行なっている。

技術的構造について述べておこう。工業部門は工業製品それ自身と、天然資源または再生資源を投入して工業製品と廃棄物を結合生産する。天然資源と再生資源は区別なく、完全に代替可能であるとしよう。農業部門は工業製品の投入によって農産物と廃棄物を結合生産する。再資源化部門は、工業製品と資源を含んだ廃棄物によって再生資源を生産する。家計は、農産物Hと工業製品 θ H の消費によって廃棄物を生産する。各aは生産係数をあらわし、aij \; (i=k,r:j=k,c,r)は第j部門の1単位生産に必要な第i部門の主要生産物量である(注4)。この生産係数はすべて正である。またwi \; (>0,i=k,c,h)は各部門の1単位の生産、あるいは1単位の消費によって発生する廃棄物量である。ここでは簡単化のために、一種類の廃棄物だけを考える。問題は、これをいかなる単位で測るかである。各過程において結合生産される廃棄物は一般には異なった形態をもっている。したがって、異なった廃棄物として取り扱いそれぞれの単位をもたせることも可能だが、それは不必要な複雑化である。われわれは単純にそれらの廃棄物に含まれている資源量によって測ることにする。

このように廃棄物の単位を確定することによって、1単位の再生化資源の生産に必要な廃棄物量を定義でき、それをawr(>0)とあらわすことにする。

以上で基本的なモデルは構成されたが、そこにあらわれている技術体系のもとで、経済は持続可能なものとして機能しうるか、かつ経済のなかでの資源の物質的な流れはどこまで閉じたものとなりうるかを問題にしなければならない。そこでまず、財に対する需要と供給の関係が定常的に実現可能なものとなる条件からみることにしよう。各部門の主要生産物量をxにサフィックスを付けたものであらわす。

xk ≧akkxk+akcxc+akrxr+θH    (E1)
xc ≧H    (E2)
N+xr ≧arkxk    (E3)
wkxk+wcxc+whH ≧awrxr    (E4)
xk,xc,xr ≧0    (E5)

(E1) \sim (E5)はそれぞれ工業製品、農産物、資源、廃棄物に関して需要が供給を上回らない条件式である。左辺は供給をあらわし右辺は需要をあらわしている。この物量体系において、天然資源投入量Nが十分存在し、それが経済に対してなんの制約にもならない場合、

1-akk > 0    (E6)

が工業部門の技術に関して成立する限り最終的農産物量Hは必ず確保できる。Nが十分大きいので再資源化部門は稼働する必要はなく、したがってその部門の技術水準いかんは問題にならない。(E6)は再資源化部門を含まない通常のモデルにあらわれる純生産条件であり、1単位の工業製品の生産に1単位以上の工業製品それ自身が必要とされないことをあらわしている(注5)。

天然資源の投入Nが十分に可能であるという状況はわれわれが前提とするものではない。新しい自立的技術体系は天然資源の投入に関して強い制約が行なわれざるをえないのである。そこで、問題はまず、こうした天然資源投入の制約下においては、再資源化部門の稼働が期待される。しかし、この部門の技術的条件が工業部門の技術との比較において適切ではないために、稼働することが不可能となる場合も考えられる。この点を考察しよう。われわれはまず単純化のために、農産物はちょうど必要とされる消費水準を賄うだけ生産されるという想定をおこう。すなわち、(E2)式が等号で成立するような状況だけを考えるのである。この想定は、後に十分に明らかにされるが、特殊なものではない。そこからえられる結論は、この制約をあらかじめおかない場合にえられる結論とまったくかわりがない。もちろんすべての場合を尽くしたものではないが、少なくともこの節でわれわれが導く結論についてはこの想定をはずした場合についても成立するのである。

このときまず、(E1)と(E3)を満たすような領域について検討しよう。これについては、図で示すと次の図~F2および図~F3のような二つの場合がありうる。

図:再資源化部門が稼働されない場合   (F2)

図~F2のような場合は、(E1)を等号で結んだ式の傾きが、(E3)を等号で結んだ式の傾きよりも小さい場合である。このときNが小さすぎると図~F2のような関係になってしまい、AとBというそれぞれを結ぶ領域が重ならなくなってしまう。重なり合う領域があらわれるためには、e点がf点よりも右側にこなければならない。その場合、(E3)におけるNを最小にする有効な生産点はfになり再資源化工程は稼働されない。

図:再資源化部門が稼働される場合   (F3)

一方、図~F3のような場合には、Nが少なくなっても両者を満たす領域Cがあらわれる。このとき無駄のない有効な生産点は、gであり、再資源化部門を稼働することが可能である。したがって、二つの領域の境界を示す直線の傾きが重要であることをこのことは示している。図~F3のようになるための条件は、直線の傾きの比較から、

ark < (1-akk)/(akr)

であることが分かる。この式はさらに、

1-akk-akrark > 0    (E7)

と書き換えられる。

この(E7)は再資源化部門が稼働されるための第一の条件であるが、この意味をより詳しく調べてみよう。まず明らかに、(E7)が成立すれば、(E6)は無条件に成立している。しかしその逆はいえない。(E6)が1単位の生産による純生産物としての工業製品が正でなければならないことをあらわしている。この点から考察すれば、(E7)もまた1単位の生産財の生産によって生産される純生産物としての工業製品をあらわしているが、左辺第3項があらわれているように、その1単位の工業製品から、その生産に直接要した生産財ばかりでなく、その生産に必要な資源を生産するために必要な工業製品をさらに控除してもまた工業製品の純生産が可能であることを示している条件なのである。したがって、これは再資源化部門が稼働する場合に拡張された純生産条件である。いいかえれば、この条件は工業製品の純生産という観点からみて、再資源化部門を稼働することが可能であることを示す条件である。この条件は単に再資源化部門の技術水準をあらわしているのではなく、また工業部門の技術水準も関係していることは(E7)からも明かであろう。しかし、もし既存の技術水準を前提として再資源化部門が稼働可能かどうかを問題にするのであれば、(E7)はその再資源化部門が工業製品の使用に関して満たさなければならない技術水準の高さをあらわしているのである。いいかえれば(E7)は、再資源化部門が稼働可能かどうかという問題について、純生産1-akkが既存技術としてすでに与えられているなかで、さらにそこから akrark を控除してもなお純生産が残る場合にのみ可能であることを示しているのである。

(E7)が成立していれば、天然資源投入が小さくても再資源化部門を稼働することによって(E1)および(E3)を共に満たす領域があらわれる。ただし再資源化部門の稼働にも上限がある。すなわち、供給される廃棄物によって上限が画されているのである。すなわち、ここに至って(E4)の制約条件が問題になるのである。この(E4)による制約の状況を図~F4にあらわしている。

図:廃棄物制約を考慮した場合   (F4)

たとえばいま、各部門の1単位の生産あるいは消費に対して排出される再生可能な廃棄物が、単位再生資源生産のために必要な廃棄物量に対して十分多い場合を考えてみよう。この場合は、図の黒く塗りつぶしてある部分のような、ある与えられた天然資源投入の制約に対してすべての制約条件を満たす領域があらわれる。実際、このような場合はさらに天然資源の投入を減少させることが可能であることが図からも読み取れるであろう。しかし、廃棄物の排出量が十分ではない場合、(E1)、および(E3)を満たすような領域が存在したとしても、さらに(E4)を満たすような領域が存在しないような場合も有り得る。図のL-M'はwkが相対的に小さい場合が示してある。この場合は、天然資源投入を増大させ交点をg'にするほかない。

また、この図~F4からわれわれは次のような点も読みとることができる。それは(E7)が満足されている場合、wiがすべて0でない限り、再資源化部門を稼働させることはそうしない場合よりも天然資源の投入を少なくすることができるということである。このことから、(E7)がわれわれの物質的循環系として経済を把握する場合、あるいは実際に再資源化部門が意味ある部門か否かを評価する場合に決定的な重要性をもつ条件であることが分かるのである。この条件は物質的循環系の純生産条件であり、この経済系が機能するためのもっとも基礎的な条件なのである。

ところで、(E4)の制約は廃棄物の供給に関する条件であるが、各wiがどこまでも大きくなれないことは容易に想像がつく。もし図~F4の場合、各wiが大きくなると不可欠な天然資源の投入量がどこまでも小さくすることができ、それはいずれN=0を可能にするかも知れない。これは、明らかに「完全なリサイクリングは不可能である」というジョージェスク=レーゲンの命題を打ち破ることになってしまう。確かに、このN=0のような状況は、人間のいかなる生活の過程でも起こりえないわけではない。というのは、前にも述べたように人類は、その過去の歴史の中で、ほとんどの期間をN=0あるいはそれに近いところで生存し続けてきたからである。しかし、今日の人類の発展段階においてその期間の状況の再現を想定することはまったく無意味であり、われわれはジョージェスク=レーゲンの完全リサイクリングの不可能性、すなわち資源は人間の使用の過程で不可避的に散逸するという命題を受け入れざるをえない。

そこで次に、この資源散逸が支配することの条件を求め、その意味を検討しよう。


3.1.3 定常循環系の資源散逸条件   (目次へ


この節では資源散逸が存在するもとで、われわれのモデルに含まれている諸係数間で満たされるべき条件を求めることにしよう。われわれはこの条件を「定常循環系の資源散逸条件」と呼ぶことにする。

N=0で経済系が持続不可能であることを示すためには、われわれの物量体系の制約条件式、(E1) \sim (E5)のもとで、最小実現可能な天然資源投入量Nが正であることを示せばよい。この天然資源投入量の最小化という目的性をモデルにはめ込むことは、単に物質的循環系の資源散逸条件を求めるために便宜的に行なわれるものではない。それは、現実にわれわれの社会がもっているべき主要な目的の一つであり、すでに今日の経済系そのものにこの目的性がどのようにはめ込まれるかは、それ自体考察されるべき問題なのである。

そこでまず、(E1) \sim (E5)までの条件を図に描くことからはじめよう。図~F5にはそれらの有り得る条件の一つが描かれている。

図:原問題の実行可能領域   (F5)

複雑であるが、一つずつ制約条件との関係を明確にしておこう。簡単なところから、(E2)の条件については、不等式が等号で結ばれた場合の面がRHDの各点を含むものであり、その面から手前の原点を含まない領域が制約を満たす領域となる。(E1)の条件を満たす領域は、LKCの各点を含む面から右側の領域である。(E4)を満たす領域はRMPのそれぞれの点を含む面から下側の部分である。(E3)についてはNが可動な面として考えなければならないが、ここでは、GHIJの各点を含む面の左側の領域であり、この面が原点に近づくけば近づくほどNは小さいのである。したがって、天然資源投入最小化問題の解となる各部門の生産水準をあらわす点は、(E1)、(E2)、および(E4)を共通に満たす正象現内の領域で、Nを十分大きい状態からだんだん小さくしていったときに、その領域を離れる直前に接していた点であることが分かる。そして各係数がこの図のような状況を満たすものであるとき、その点はA点となる。この点ではすべての部門の生産水準が正であり、かつ最小化された資源投入量もまた正である。

そこでこの図を基準にしながら、資源散逸が成立することの条件を求めることにしよう。

まず、より基本的な条件から求めると、(E3)と(E4)の条件に関するものがある。それは、直線RFの傾きが直線GHの傾きより小さくなければならない。そうでなければ(E7)が成立しているもとでは明らかに面GHIJとA点のような接点があらわれず、Nは0になるまで小さくすることができる。これは、図~F4において直線LMの傾きが、直線egの傾きより小さくなければならないことに対応している。この傾きに関する条件さえ成立していれば、RFの傾きは直線BAの傾きより小さくなり、この点に関する条件も満たされるようになる。なぜなら条件(E7)より、BAの傾きはGHの傾きより大きくなければならないからである。RFの傾きはwk/amrでありGHの傾きはarkであるから、結局、

(wk)/(awr) < ark

を満たさなければならないことを意味している。これは次のような式に変形しうる。

awrark-wk > 0    (E8)

この条件はまだ非常に簡単な形式をしているためにその意味をとらえることはそんなに困難ではない。左辺第1項は、1単位の工業製品を生産するために、再資源化部門を通して間接的に必要な廃棄物の量をあらわしている。したがって、この条件は、1単位の工業製品の生産に間接的に必要な廃棄物量が、その生産によって生み出される廃棄物量よりも大きくなければならないことをあらわしているのである。すなわち、いいかえれば工業部門と再資源化部門の間の資源の循環過程を通して資源の完全なリサイクリングが行なわれていないことを意味している。しかし、このことは全体的なリサイクリングの可能性を否定しているものではないことに注意しなければならない。なぜなら、工業部門に投入された資源がすべて廃棄物に含まれることはまずなく、その一部は工業製品そのものに含まれるからである。したがって、この条件は少なくとも二つの部門間の資源の循環に限定して、完全リサイクリングがあってはならないことを意味しているのである。したがって、われわれが問題にしている物質的循環系の必要条件の一つである。

次の条件は、直線QEと直線GHの傾きに関するものである。直線QEは工業製品の需給均衡をあらわす面LKCと廃棄物の需給均衡をあらわす面RMPとが交わっている直線をあらわす。GHは前と同じ天然資源の需給に関する面を構成する直線である。このQEの傾きはGHの傾きよりも小さくなければならない。でなければN ≦ 0が可能になってしまうからである。ところで、われわれの図では、一見このQEの傾きよりRFの傾きの方が小さいので、この条件が満たされれば先の(E8)の条件は必然的に満たされるかのようであるが、それは誤っている。もし、直線RMと直線KCの傾きがよりxc軸に平行に近づけば近づくほどQEの傾きはどんどん小さくなっていく。その際、RFの傾きは不変であるから、その傾きよりもQEの傾きの方が小さくなる場合があらわれてくるのである。ただし、QEの傾きとGHの傾きを比較する場合、同一平面上で行なわなければ比較の意味はないのであるが、直線IGはxc軸に平行であることからo - xrxk面への射影を考えて比較すればよい。

GHの傾きは後背面への射影をとっても同じでarkである。QEの傾きの射影は、まず二つの面の交わった直線の方程式のxrとxkの間の関係を調べればよい。具体的には、(E1)と(E4)の不等号を等号にした式について、xcを消去すればよい。それによって求められる傾きがarkより小さいという条件は結局次のように表わされる。

(wc(1-akk)+wkakc)/(akrwc+awrakc) < ark

ここで、左辺がQEの傾きである。この不等式は簡単な変形によって、次のような不等式に表わされる。

(awrark-wk)/(1-akk-akrark) > (wc)/(akc)   (E9)

この式の意味するところを考えてみよう。まず、左辺の分母は定常循環系の純生産条件(E7)の左辺、すなわち1単位の工業製品の生産による工業製品の純生産量である。分子は、第一の資源散逸条件(E8)の左辺であり、1単位の工業製品の生産によって廃棄物に移されず、工業製品それ自身に含まれるか、ないしは散逸してしまった資源の量をあらわしている。したがって、左辺は、純生産された1単位の生産あたりの工業製品に体化されるか散逸してしまった資源量をあらわしている。これに対して、右辺は農業部門における生産のために投下された工業製品1単位当りの廃棄物量、厳密には廃棄物に含まれた資源量である。したがって、条件式(E9)は農業部門において工業製品を通して投下された資源量は廃棄物に含まれる資源量よりも大きい、すなわち農産物の生産過程において資源が完全に廃棄物に含まれ切れないことを意味している。もちろん資源の一部は農産物そのものにも含まれる可能性があるから、この条件式だけで、物質的資源散逸条件が完結するわけではない。

ただし、この条件式に関して次のことには注意しておかなければならない。それはこの不等式が成立している場合、単に農産物生産過程における資源漏出を否定するばかりでなく工業部門の生産過程におけるそれも否定することになるという点である。すなわち、(E9)が成立していれば、左辺は必ず正であり、分母は(E7)によって正であるから、分子(E8)も正でなければならないのである。

さて、以上のように純生産条件(E7)と資源散逸条件(E9)が成立すれば、天然資源投入Nを最小化する場合Aのような点が解となるが、これだけの条件では、この最小点において、Nが正となることは約束されないのである。つぎにこのN > 0であるための条件を求めてみよう。このことはそんなに困難ではない。A点がすべての面の交点となることを考えれば、(E1) \sim (E4)までの条件式を等式としてとらえてxk、xr、xcをすべて消去し、Nを求めればそれが最小解であり、その正値条件を調べればよい。最小天然資源投入量Nは次のようになる。

N = {(awrark-wk)(θ+akc)-(1-akk-akrark)(wh+wc)}/{(1-akk)awr-wkakr}H

この分母は、(E7)および(E8)から必ず正となる。したがって、Nが正であることは分母が正であることと同値である。したがって、この条件は次のように表わされる。

(awrark-wk)/(1-akk-akrark) >{wc+wh}/{akc+ θ}    (E10)

この条件の意味はすでに述べたところから容易に推察できるであろう。すなわち、工業部門から、農業部門だけではなく、家計における消費過程も含めて必ず資源散逸が存在する条件をあらわしている。前と同じようにこの式がもし等号で成立していればすべての過程を含めた資源の完全リサイクリングが実現していることになる。それは、N=0になることからも容易に理解されるであろう。(E10)が成立していることはどこかの経済過程で資源が散逸してしまっていることを示しているのである。

この、(E7)、(E9)、(E10)の条件の間の関係は難解かも知れないが、後の節で資源転化条件のモデルからこれらの物質的資源散逸条件を出すと、これらの関係が明瞭に理解されるだろう。われわれがここで確認しておかなければならないことは、これらが独立の必要条件でありそれぞれ他にとって変わることができないということである。それらは、三つそろって物質的循環系において天然資源投入が不可避であることの必要十分条件なのであり、物質的資源散逸条件なのである。


3.1.4 資源、廃棄物価値の正値条件と資源散逸条件   (目次へ


ここでは、これまでに求めた純生産条件と物質的資源散逸条件が成立しているもとでは、資源価値および廃棄物価値がともに正となることを示そう。われわれはこれまでのところで、経済系を物質的な循環系としてとらえることを問題にし、その前提となるモデルを提示し、またそれが実際に再資源化部門が稼働可能であるための条件、同時に資源散逸の条件を示してきた。そして、この節ではそれが価値的にも、これまで無価値として経済から無視されていた天然資源と廃棄物にも正の価値が与えられることによって、価値的循環系としても成立していること、すでに述べた条件はそのための条件ともなっていることを示す。

前章で議論したように、価値は常に対応する目的を有している。われわれにとってこの物質的循環系としての経済において社会的目的はまったく明白である。すでに述べたように、それは天然資源投入の最小化に他ならない。したがって、このような目的に最も貢献し得るような価値体系とは何かが問題である。この点を考えることは困難なことではない。この定常循環系において評価が問題になるとすればそれは、システムを構成している要素の変更をする場合にどのような方向への変更が望ましいのかがより効率的に把握し得ることである。それは、人々が効用最大化するときに、限界代替率という価値評価に導かれながら無差別曲線の流れの中を実現可能な最大効用点を求めていくという、消費者選択理論の想定と同じである。われわれの問題にしているシステムにおいていかなる変更も不可能であればおよそ価値評価など必要はない。しかし、たとえば、この経済には家計があり、この家計は天然資源最小化という目的にとって望ましい消費の組合せを模索しているはずである。また企業は、その社会的目的にとって望ましい技術はいかなるものかを模索しているはずである。このときには効用最大化のモデルと同じように、異なった財貨に共通の指標を与えることによって組合せの目的適合性を評価しなければならないのである。

こうした目的適合的な価値体系としては、天然資源投入量最小化問題の双対問題の解を考えることが妥当である。その双対問題によって与えられる価値体系は帰属価値体系としてさまざまな意味をもっている。たとえば、この最小化問題において、最終的な財需要、すなわち工業製品の最終需要としての θ H、農産物の最終需要H、そして負の需要としての廃棄物供給(さらにここでは消費バスケットの中に入っていない天然資源そのものの消費を0から少し増やす場合が考えられる)などの組合せを変化させたときに、その変化が天然資源投入量を多くするか少なくするかがその価値体系で財のバスケットをこの帰属価値体系で測ることによってたちどころに分かるのである。そして、最終的な純消費の総価値は投入天然資源価値に一致するという性質も有している。また、目的を最小化するような技術の選択にも決定的に重要な役割を果たす(注6)。このような意味で、問題になっている価値体系を資源投入最小化問題を原問題とした双対問題の解と考えて議論することにしよう。

そのためにまず、その双対問題そのものをここで提示しておこう。財および資源の価値をpにそれぞれのサフィックスをつけたものとしてあらわそう。このとき、双対問題は原問題から次のようにあらわされることがわかる。

max.  (pk θ +pc-pwwk)H

s.t.

pk+pwwk ≦pkakk+prark    (E11)
pc+pwwc ≦pkakc    (E12)
pr ≦pkakr+pwawr    (E13)
pr≦1    (E14)
0≦pk、pc、pr、pw    (E15)

まず、目的関数は消費の純価値をあらわしている。(E11)式は工業製品生産部門において廃棄物も含む産出物価値が投入価値以上にはならないことを示している。同様に(E12)、(E13)はそれぞれ農業部門と再資源化部門における条件である。(E14)はやや奇妙だが、自然を一つの部門と考えて、1単位の天然資源の投入が価値として何単位のものを生み出すかをあらわしている。

この(E14)についてだけ、この不等式が必ず等号で満たされなければならないことを確認しておこう。双対定理をこの問題に適用することによって、原問題において正の産出がある部門の投入財総価値は完全に生産物に保存されるということがわかる(注7)。われわれはすでに、純生産条件と物質的な資源散逸条件がすべて満たされる限り、最小資源投入Nは必ず正になることを示した。したがって、(E14)は等号で満たされなければならない。すなわち、資源価値は1で正なのである。このことはまた、すべての価値は資源価値を価値基準材として測られていると考えてもよいことを示している。

そこで、pr=1として、(E11)〜(E13)式をもう一度書き下しておこう。

pk+pwwk ≦pkakk+ark    (E16)
pc+pwwc ≦pkakc    (E17)
1 ≦pkakr+pwawr    (E18)

さて、これらの三つの制約条件を満たす領域が問題になるが、われわれの純生産条件と物質的資源散逸条件(E9)が満たされているもとでは、図~F6のABCDで囲まれるような、すべての条件を満たす領域が必ずあらわれることが分かる。

図: 双対問題の実行可能領域   (F6)

まず、GHIJであらわされる面より下のほうは、(E16)の条件を満たす領域である。KLMNであらわされる面より上側は(E18)を満たす領域である。EOFより向い側は、(E17)を満たす領域となっている。また、いま目的関数の値をVとしこれが与えられているとすると、V=(pk θ +pc-pwwk)Hは一つの面をあらわし、それはたとえばPQRSのようになる。Vを大きくすればするほど、この面は手前にくるので、明らかに目的関数を最大にする点は、A点である。このA点では、たしかにpw>0となっている。すなわち、廃棄物価格は正である。そして、このときの目的関数の値が正であることは、資源散逸条件(E10)によって約束されているのである。

しかし、たとえば、(E7)が満たされていなかったら、I点とM点が逆転した図になり、領域は下の面まで広がってしまう。したがって、明らかにpw=0になってしまう。また(E7)が満たされているもとで、(E8)が満たされていないと、H点とL点が逆転し、制約条件を満たす領域が存在しなくなってしまう。また、もし、(E9)が満たされていないと、OEの傾きが、直線ODの傾きより小さくなり、これもまた制約条件を満たす領域が存在しなくなる。

以上の結論として、純生産条件と資源散逸条件が満たされているもとでは、資源価値も廃棄物価値もともに正となることが解った。
3.1.5 資源転化体系による資源散逸条件の導出   (目次へ


ここで、われわれはこれまで重要な役割を果たしてきた資源散逸条件を完全に導出することができ(E9)(E10)のような複雑な表現ではなく、もっと直接的で意味するところが明瞭な体系を示すことにしよう。

われわれのモデルの中には、資源を含んでいる可能性があり、その含有量が明確になっていない財として、工業製品と農産物がある。一方、廃棄物はまさにその資源含有量で測っている。そこで、この工業製品と農産物の資源含有量をそれぞれ、 λ kと λcでらわすことにしよう。この各 λ は資源価値のような体系の全体が与えられなければ確定しない評価価値ではなく、実際に物理的に個別的に測定可能な量である。また、各部門における資源保存率をδ であらわすことにしよう。すなわち、ある部門で1単位の資源が投下されたときにそれが生産物あるいは廃棄物の中に物理的に保存される割合である。したがって、その部門では、1- δ の割合で、資源が再資源化不能な形で散逸することをあらわしている。そして、この δ も原理的には測定可能である。そして、これらの係数は家計における消費過程についても適用される。

これらを用いて、各経済過程において資源が投入要素から産出物に転化する過程は次のような条件式によってあらわされることになる。

δak(ark+ λkakk)= λ k+wk    (E19)



δc λkakc= λc+wc    (E20)



δr(awr+ λkakr)=1    (E21)



δh( λc+ λk θ )=wh    (E22)



0 ≦ δi ≦ 1 \; (i=k,c,r,h)    (E23)

われわれは、この方程式体系を資源転化体系と呼ぶことにする。(E19)式は工業部門における資源の転化に関する条件式である。同様に、(E20)は農業部門、(E21)は再資源化部門、(E22)は家計におけるそれである。(E23)はすべての δ は非負かつ1以下でなければならないことを示している。また、この δ については、物質的資源散逸法則からさらにいくつかの条件が導出されるがそれは以下で詳しく検討する。これらの式は事実上は資源保存率 δ を決めている式であると考えるのが妥当であろう。なぜなら、 λ と w は個別財の観測によって確定でき、他は技術的な係数か消費係数であるからこれも与えられているからである。

(E23)を考慮すると、(E19) \sim (E22)式は次のようにもあらわされる。

ark+ λkakk ≧ λk+wk    (E24)



λkakc ≧ λc+wc    (E25)



awr+ λkakr ≧ 1    (E26)



λc+ λk θ ≧ wh    (E27)

これらの式から物質的資源散逸条件を導出しよう。まず(E24)より、

ark ≧ λk(1-akk)+wk

(E26)の両辺にarkをかけると、

awrark+ λkakrark ≧ ark

以上の二つの式より、

awrark+ λkakrark ≧ λ{k}(1-akk)+wk

したがって、

awrark ≧ λk(1-akk-akrark)+wk    (E28)

(E7)より1-akk-akrark > 0であるから、

awrark ≧ wk

ただし、この等号は、 δk= δr=1 かつ λk=0のときに限って成立する。ところがもし λk=0 ならば、(E25)および(E27)により wc=wh=0 になり、われわれの想定に反することになる。したがって、したがって、資源転化体系のもとでは(E8)は必ず成立することになる。

次に、(E26)を変形することによって、

(akc)/(wc) ≧ (λc)/(wc λk)+(1)/(λk)

が成立する。また(E28)を変形することによって、

(1)/(λk) ≧ \frac{1-akk-akrark}{awrark-wk}    (E29)

が成立する。したがって、

(akc)/(wc) ≧ (λc)/(wc λk) +(1-akk-akrark)/(awrark-wk)    (E30)

となり、これから、

(akc)/(wc) ≧ \frac{1-akk-akrark}{awrark-wk}

両辺を逆数にすることによって、

(wc)/(akc) ≦ \frac{awrark-wk}{1-akk-akrark}

をえる。この場合、われわれは(E28)を使用していることを考慮すれば、等号は、 δk= δr= δc=1 かつ λc=0 のときに限って成立する。 λkとは異なり λc=0は必ずしもわれわれの想定とは矛盾しない。したがって、資源散逸条件(E9)は、資源転化体系において、 δk, δr, δc の少なくともいずれかが1よりも厳密に小さいか λc > 0 のいずれかが成立することと同値である。

最後の条件の導出に移ろう。(E30)式より、

akc-((1-akk-akrark)wc)/(awrark-wk) ≧(λc)/(λk)    (E31)

をえる。また、(E27)を変形することによって、

c)/(λk)+ θ ≧ (wh)/(λk)

をえる。この式に、(E29)および(E31)式を適用することによって、

akc+ θ - ((1-akk-akrark)wc)/(awrark-wk)≧ (λc)/(λk) + θ ≧ ((1-akk-akrark)wh)/(awrark-wk)

をえる。左辺と右辺の比較により、結局、

(wc+wh)/(akc+ θ) ≦ (awrark-wk)/(1-akk-akrark)

をえる。この場合、等号が成立するのは、 δk= δr= δc = δh=1 のときに限られる。したがって、資源散逸条件(E10)が成立するのことは、われわれの資源転化体系において、少なくとも一つの δ が厳密に1よりも小さいことである。

以上で、われわれの資源転化体系から、資源散逸条件をすべて導出したことになる。これまでの結論をまずここでまとめておくと、まず、条件(E8)はわれわれのモデルの想定のもとでは、資源転化体系からただちに導出される。条件(E9)は δk, δr, δc のいずれか一つが1よりも厳密に小さいか、農産物の資源含有量 λc が正であるかのいずれかの場合に成立する。条件(E10)は δk, δr, δch のいずれか一つが1よりも厳密に小さいことと同値である。

したがって、われわれの資源散逸条件は、次のようにまとめることができる。すなわち、一つ以上の財の生産部門で再生不可能な形で資源の散逸が起こっているか、でなければ、農産物に資源が含有されていることかつ消費過程において再生不可能な形で資源の散逸が起こっていること、のいずれかが成立していることである。

このように表現された資源散逸条件は次のような意味をもっている。すなわち、図~F1にかえってみる。そこで、工業部門Kと再資源化部門Rの間で一つの物質循環が構成される。この循環の過程では、少なくとも工業製品の資源含有量が正でなければならないことから必ず循環は資源の縮小する方向の変化を生み出す。(E9)の条件は、KおよびRさらに農業部門Cを加えた三角の資源の循環過程で、資源の現象的変化が生じなければならないことを示している条件である。さらに、(E10)の条件は、それに家計Hも加えたすべての循環過程のどこかで、資源の不可逆的散逸が発生しなければならないことを示している。

以上のように、資源散逸条件の意味を考察する上で、われわれの提示した資源転化体系が意味ある役割を果たすことが確認できた。

脚注
(1)ただし、ここでの廃棄物は再資源化可能な廃棄物であり、たとえば農地に散布された農薬などのように現在の技術水準のもとで再資源化が不可能なものは含まれていない。(もどる
(2)線形多部門モデルの枠組みの中で、結合生産を許容することは解析上やっかいな問題を生じさせることになる。この点についてはすでに古典派経済学者の時代から指摘されていた。J.S.ミルは結合生産を含む体系においては価値の決定が困難になることを次のように指摘している。「時として、二つの相異なった商品が、連帯生産費とも呼びうるものを有することがある。これらの商品はともに同じ一作業、同じ一組の作業の生産物であって、その支出は両者双方のために必要とされ、その一部は一方のために、他の一部は他方のために必要とされるものではない。たとえこの両者のうち一方は不必要であったとし、あるいは総じて使用されることがないとしても、他の一方のために同じ支出を負担する必要があるであろう。このように生産過程が関連しあっている商品の例は少ないものではない。例えば、コークスと石炭ガスとはともに同じ原料から、同じ作業によって生産されるものである。・・・・生産費は、このような関連生産物の相互に対する価値を確定することには、何の関与もし得ない。それはただそれらのものの連帯的価値を確定するのみである」(前掲、『経済学原理』、III、p.254)ミルが、コークスと石炭ガスの結合生産を例としてとり上げているのが興味深い。というのも、コークスは石炭を乾留することによってえられるが、その際結合生産されるガスは最初はその臭いや汚さからやっかいな廃棄物であった。1792年に機械技師マードックによって石炭ガスを燃やして照明に使う方法が考案されて初めて廃棄物から有用性のある財へ変化したのである。石炭乾留は同時にコールタールというやっかいなものも結合生産するが、これもナイロン合成の材料になる石炭酸が1820年代のドイツで技師ルンゲによって抽出されるまでは単なる廃棄物にとどまったのである。ミルの例は廃棄物と結合生産にかかわる問題の象徴的なものだったのである。こうした結合生産のもとでの価値決定の困難は、線形多部門モデル上で古典派的な再生産費価格理論を問題にするときは不可避的につきまとう問題である。特に結合生産を含む場合の労働価値説の有効性についての議論にその点は集中的に反映している。(たとえば、『マルクスの経済学』、高須賀義博訳、東洋経済新報社、1974年刊などを参照)こうした結合生産体系のより積極的な側面は、フォン・ノイマンの成長均衡モデルにかかわる議論の中で多くされている。(たとえば、森嶋通夫、「均衡成長の多部門理論−ノイマン理論の学説史的展開−」(所収『新しい経済分析、第1章』、森嶋、篠原、内田編、創文社、1960年刊)あるいは、M.Morishima, {\em Theory of Economic Growth}, Oxford Univ. Press, 1969などを参照。(もどる
(3)ジョージェスク=レーゲンのこの問題に関する議論は次の著作を参照。『経済学の神話---エネルギー、資源、環境に関する真実---』、小出厚之助、室田武、鹿島信吾訳、東洋経済新報社、1981年刊。(もどる
(4)arは前章のnkと同じものである。(もどる
(5)第2章2.1節でもこの基本的条件は確認している。(もどる
(6)以上の点は、第2章で確認しているわれわれの定義する価値の機能に完全に整合的である。(もどる
(7)双対定理は線形計画問題を考える上での基本的な定理である。たとえば、『経済のための線形数学』、二階堂副包著、培風館、1961年刊、R.Dorfman, P.A.Samuelson and R.M.Solow, {\em Linear Programming and Economic Analysis}, McGraw-Hill Book Company, Inc.: New York.(『線形計画と経済分析』、ドーフマン、サミュエルソン、ソロー著、安井琢磨他訳、岩波書店、1958年刊、)、D.Gale, {\em The Theory of Linear Economic Models}, The Univ. of Chicago Press: Chicago, 1960.(『線形経済学』、D.ゲール著、和田貞夫、山谷恵俊訳、紀伊國屋書店、1964年刊)など参照。(もどる

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