目次 |
第 3 章 定常循環系のモデル分析 3.1 節 定常循環系の技術的条件 3.1.1 廃棄物の結合生産と再資源化部門 3.1.2 定常循環系の理論モデルと純生産条件 3.1.3 定常循環系の資源散逸条件 3.1.4 資源、廃棄物価値の正値条件と資源散逸条件 3.1.5 資源転化体系による資源散逸条件の導出 |
第 3 章 定常循環系のモデル分析 (目次へ) |
第1章で指摘したように、グローバルな生態循環と整合的な経済循環を回復するためには、われわれの経済内部における資源循環機能がきわめて重要な意味を持っている。経済学はこれまで、この問題を十分に取り扱うための理論的枠組みを提供してこなかった。本章では定常循環系の基本的な理論モデルを提示するとともに、その中で決定的な意義を持つ再資源化部門が稼働するための条件の分析、生産と消費の総過程の中での資源の物理的循環を扱うシステムの提起、およびそれと通常の需給体系、価値体系の関連なども明らかにする。そして、さらにこのモデルを実証的なものに応用した、廃プラスチック再資源化技術の物量的な効率性の検討を行う。 |
3.1 節 定常循環系の技術的条件 (目次へ) |
3.1.1 廃棄物の結合生産と再資源化部門 (目次へ) |
経済循環を回復するためには、資源を経済の内部で最大限再循環させることが重要な意味を持っている。資源の再循環を増大させることは、これまで廃棄物として処理したものを再資源化させることである(注1)。この廃棄物は、ほとんどあらゆる経済活動の場で、あらゆる経済主体によって行われている。そのうち、生産の場で生み出される廃棄物は、必ず何らかの主生産物の副産物として生み出されている。たとえ何らかの廃棄物処理産業であっても、それらは廃棄物処理というサービスが生産され、最終的に自然の中に廃棄される物質が副産物となるのである。すでに指摘しているように、これまではこれらの副産物としての廃棄物は無価値であるがゆえに、廃棄物は生産された時点で経済のいかなる対象でもなくなってしまう。したがって経済学も、こうした形での結合生産を十分に取り上げてこなかった。しかし、生産過程で物的廃棄物が生じるのは一般的であり、また今日のゴミ問題に象徴されるように、この副産物がわれわれにとってきわめてやっかいなものになるくらいに巨大化している。 生産過程における廃棄物は、さまざまな種類のものが発生する。したがって、廃棄物を副産物と考えた場合、ほとんどすべての生産過程で行われている結合生産はきわめて複雑なものとなっているのである。しかし、この結合生産を考えることは、理論的な扱いを著しく困難にする側面をもっている。われわれは、第2章でマクロ的な目的に基づく価値の機能を議論する場合に単純化のために、経済の中での基準的な機能を果たすものとして、結合生産を考慮しない技術体系のモデルを採用した。しかし、それは一般には廃棄物が生産された時点で経済の対象とならなくなる現在のような経済のもとでのみ許される単純化であり、資源の再循環を表現する場合には大きな誤差を覚悟しなければならなくなる(注2)。 この節では、資源の経済内部の再循環に関する理論的問題を考察するが、その際、生産過程における廃棄物の結合生産を明示的に含んだ可能な限り単純なモデルを用いる。 この定常循環系のモデルにおいて特有の部門は再資源化部門である。すなわち、各部門あるいは家計から排出された廃棄物を再び利用可能な資源に変換する部門である。ここではこうした部門が加わることによって生じる問題を、循環系が純生産物を発生し得るかどうかという純生産条件、そしてジョージェスク=レーゲンによって打ち立てられたいかなる循環系も資源を完全にリサイクルさせることは不可能であるという(注3)、資源散逸の不可避性をあらわす資源散逸条件という二つの条件に焦点を当てながら考察する。この純生産条件と資源散逸条件は定常循環系をとらえる上でのもっとも基本的な条件なのである。 さらにわれわれは、これまでほとんど考えられたことが無いと思われる特殊なモデル、資源転化体系によってこの資源散逸条件をとらえることができることを示す。われわれは、通常の財の需給均衡条件から構成される物量体系、そしてその双対体系としての、各部門における価値保存式から構成される価値体系の他に、第三の体系としてこの資源転化体系を提示する。この体系は、投入された資源が、価値的にではなく物理的に生産物に保存される状況を表現する体系である。したがって、資源に関して投入価値が生産物にどれだけ帰属させられるかといった価値評価の問題とは質を異にしている。われわれは、この資源転化体系を提示し、それが資源散逸条件をとらえる上でどのように機能するかを示すだろう。 本節は、こうした定常循環系に関わる基本的な問題を解析することによって、現実の経済統計データを用いた実証分析の理論的基礎を与えることをねらいとしている。 |
3.1.2 定常循環系の理論モデルと純生産条件 (目次へ) |
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3.1.3 定常循環系の資源散逸条件 (目次へ) |
awrark-wk
> 0 (E8) |
3.1.4 資源、廃棄物価値の正値条件と資源散逸条件 (目次へ) |
ここでは、これまでに求めた純生産条件と物質的資源散逸条件が成立しているもとでは、資源価値および廃棄物価値がともに正となることを示そう。われわれはこれまでのところで、経済系を物質的な循環系としてとらえることを問題にし、その前提となるモデルを提示し、またそれが実際に再資源化部門が稼働可能であるための条件、同時に資源散逸の条件を示してきた。そして、この節ではそれが価値的にも、これまで無価値として経済から無視されていた天然資源と廃棄物にも正の価値が与えられることによって、価値的循環系としても成立していること、すでに述べた条件はそのための条件ともなっていることを示す。 前章で議論したように、価値は常に対応する目的を有している。われわれにとってこの物質的循環系としての経済において社会的目的はまったく明白である。すでに述べたように、それは天然資源投入の最小化に他ならない。したがって、このような目的に最も貢献し得るような価値体系とは何かが問題である。この点を考えることは困難なことではない。この定常循環系において評価が問題になるとすればそれは、システムを構成している要素の変更をする場合にどのような方向への変更が望ましいのかがより効率的に把握し得ることである。それは、人々が効用最大化するときに、限界代替率という価値評価に導かれながら無差別曲線の流れの中を実現可能な最大効用点を求めていくという、消費者選択理論の想定と同じである。われわれの問題にしているシステムにおいていかなる変更も不可能であればおよそ価値評価など必要はない。しかし、たとえば、この経済には家計があり、この家計は天然資源最小化という目的にとって望ましい消費の組合せを模索しているはずである。また企業は、その社会的目的にとって望ましい技術はいかなるものかを模索しているはずである。このときには効用最大化のモデルと同じように、異なった財貨に共通の指標を与えることによって組合せの目的適合性を評価しなければならないのである。 こうした目的適合的な価値体系としては、天然資源投入量最小化問題の双対問題の解を考えることが妥当である。その双対問題によって与えられる価値体系は帰属価値体系としてさまざまな意味をもっている。たとえば、この最小化問題において、最終的な財需要、すなわち工業製品の最終需要としての θ H、農産物の最終需要H、そして負の需要としての廃棄物供給(さらにここでは消費バスケットの中に入っていない天然資源そのものの消費を0から少し増やす場合が考えられる)などの組合せを変化させたときに、その変化が天然資源投入量を多くするか少なくするかがその価値体系で財のバスケットをこの帰属価値体系で測ることによってたちどころに分かるのである。そして、最終的な純消費の総価値は投入天然資源価値に一致するという性質も有している。また、目的を最小化するような技術の選択にも決定的に重要な役割を果たす(注6)。このような意味で、問題になっている価値体系を資源投入最小化問題を原問題とした双対問題の解と考えて議論することにしよう。 そのためにまず、その双対問題そのものをここで提示しておこう。財および資源の価値をpにそれぞれのサフィックスをつけたものとしてあらわそう。このとき、双対問題は原問題から次のようにあらわされることがわかる。 max. (pk θ +pc-pwwk)H s.t. pk+pwwk ≦pkakk+prark (E11) pc+pwwc ≦pkakc (E12) pr ≦pkakr+pwawr (E13) pr≦1 (E14) 0≦pk、pc、pr、pw (E15) まず、目的関数は消費の純価値をあらわしている。(E11)式は工業製品生産部門において廃棄物も含む産出物価値が投入価値以上にはならないことを示している。同様に(E12)、(E13)はそれぞれ農業部門と再資源化部門における条件である。(E14)はやや奇妙だが、自然を一つの部門と考えて、1単位の天然資源の投入が価値として何単位のものを生み出すかをあらわしている。 この(E14)についてだけ、この不等式が必ず等号で満たされなければならないことを確認しておこう。双対定理をこの問題に適用することによって、原問題において正の産出がある部門の投入財総価値は完全に生産物に保存されるということがわかる(注7)。われわれはすでに、純生産条件と物質的な資源散逸条件がすべて満たされる限り、最小資源投入Nは必ず正になることを示した。したがって、(E14)は等号で満たされなければならない。すなわち、資源価値は1で正なのである。このことはまた、すべての価値は資源価値を価値基準材として測られていると考えてもよいことを示している。 そこで、pr=1として、(E11)〜(E13)式をもう一度書き下しておこう。 pk+pwwk ≦pkakk+ark (E16) pc+pwwc ≦pkakc (E17) 1 ≦pkakr+pwawr (E18) さて、これらの三つの制約条件を満たす領域が問題になるが、われわれの純生産条件と物質的資源散逸条件(E9)が満たされているもとでは、図~F6のABCDで囲まれるような、すべての条件を満たす領域が必ずあらわれることが分かる。 図: 双対問題の実行可能領域 (F6) まず、GHIJであらわされる面より下のほうは、(E16)の条件を満たす領域である。KLMNであらわされる面より上側は(E18)を満たす領域である。EOFより向い側は、(E17)を満たす領域となっている。また、いま目的関数の値をVとしこれが与えられているとすると、V=(pk θ +pc-pwwk)Hは一つの面をあらわし、それはたとえばPQRSのようになる。Vを大きくすればするほど、この面は手前にくるので、明らかに目的関数を最大にする点は、A点である。このA点では、たしかにpw>0となっている。すなわち、廃棄物価格は正である。そして、このときの目的関数の値が正であることは、資源散逸条件(E10)によって約束されているのである。 しかし、たとえば、(E7)が満たされていなかったら、I点とM点が逆転した図になり、領域は下の面まで広がってしまう。したがって、明らかにpw=0になってしまう。また(E7)が満たされているもとで、(E8)が満たされていないと、H点とL点が逆転し、制約条件を満たす領域が存在しなくなってしまう。また、もし、(E9)が満たされていないと、OEの傾きが、直線ODの傾きより小さくなり、これもまた制約条件を満たす領域が存在しなくなる。 以上の結論として、純生産条件と資源散逸条件が満たされているもとでは、資源価値も廃棄物価値もともに正となることが解った。 |
3.1.5 資源転化体系による資源散逸条件の導出 (目次へ) |
ここで、われわれはこれまで重要な役割を果たしてきた資源散逸条件を完全に導出することができ(E9)(E10)のような複雑な表現ではなく、もっと直接的で意味するところが明瞭な体系を示すことにしよう。 われわれのモデルの中には、資源を含んでいる可能性があり、その含有量が明確になっていない財として、工業製品と農産物がある。一方、廃棄物はまさにその資源含有量で測っている。そこで、この工業製品と農産物の資源含有量をそれぞれ、 λ kと λcでらわすことにしよう。この各 λ は資源価値のような体系の全体が与えられなければ確定しない評価価値ではなく、実際に物理的に個別的に測定可能な量である。また、各部門における資源保存率をδ であらわすことにしよう。すなわち、ある部門で1単位の資源が投下されたときにそれが生産物あるいは廃棄物の中に物理的に保存される割合である。したがって、その部門では、1- δ の割合で、資源が再資源化不能な形で散逸することをあらわしている。そして、この δ も原理的には測定可能である。そして、これらの係数は家計における消費過程についても適用される。 これらを用いて、各経済過程において資源が投入要素から産出物に転化する過程は次のような条件式によってあらわされることになる。 δak(ark+ λkakk)= λ k+wk (E19) δc λkakc= λc+wc (E20) δr(awr+ λkakr)=1 (E21) δh( λc+ λk θ )=wh (E22) 0 ≦ δi ≦ 1 \; (i=k,c,r,h) (E23) われわれは、この方程式体系を資源転化体系と呼ぶことにする。(E19)式は工業部門における資源の転化に関する条件式である。同様に、(E20)は農業部門、(E21)は再資源化部門、(E22)は家計におけるそれである。(E23)はすべての δ は非負かつ1以下でなければならないことを示している。また、この δ については、物質的資源散逸法則からさらにいくつかの条件が導出されるがそれは以下で詳しく検討する。これらの式は事実上は資源保存率 δ を決めている式であると考えるのが妥当であろう。なぜなら、 λ と w は個別財の観測によって確定でき、他は技術的な係数か消費係数であるからこれも与えられているからである。 (E23)を考慮すると、(E19) \sim (E22)式は次のようにもあらわされる。 ark+ λkakk ≧ λk+wk (E24) λkakc ≧ λc+wc (E25) awr+ λkakr ≧ 1 (E26) λc+ λk θ ≧ wh (E27) これらの式から物質的資源散逸条件を導出しよう。まず(E24)より、 ark ≧ λk(1-akk)+wk (E26)の両辺にarkをかけると、 awrark+ λkakrark ≧ ark 以上の二つの式より、 awrark+ λkakrark ≧ λ{k}(1-akk)+wk したがって、 awrark ≧ λk(1-akk-akrark)+wk (E28) (E7)より1-akk-akrark > 0であるから、 awrark ≧ wk ただし、この等号は、 δk= δr=1 かつ λk=0のときに限って成立する。ところがもし λk=0 ならば、(E25)および(E27)により wc=wh=0 になり、われわれの想定に反することになる。したがって、したがって、資源転化体系のもとでは(E8)は必ず成立することになる。 次に、(E26)を変形することによって、 (akc)/(wc) ≧ (λc)/(wc λk)+(1)/(λk) が成立する。また(E28)を変形することによって、 (1)/(λk) ≧ \frac{1-akk-akrark}{awrark-wk} (E29) が成立する。したがって、 (akc)/(wc) ≧ (λc)/(wc λk) +(1-akk-akrark)/(awrark-wk) (E30) となり、これから、 (akc)/(wc) ≧ \frac{1-akk-akrark}{awrark-wk} 両辺を逆数にすることによって、 (wc)/(akc) ≦ \frac{awrark-wk}{1-akk-akrark} をえる。この場合、われわれは(E28)を使用していることを考慮すれば、等号は、 δk= δr= δc=1 かつ λc=0 のときに限って成立する。 λkとは異なり λc=0は必ずしもわれわれの想定とは矛盾しない。したがって、資源散逸条件(E9)は、資源転化体系において、 δk, δr, δc の少なくともいずれかが1よりも厳密に小さいか λc > 0 のいずれかが成立することと同値である。 最後の条件の導出に移ろう。(E30)式より、 akc-((1-akk-akrark)wc)/(awrark-wk) ≧(λc)/(λk) (E31) をえる。また、(E27)を変形することによって、 (λc)/(λk)+ θ ≧ (wh)/(λk) をえる。この式に、(E29)および(E31)式を適用することによって、 akc+ θ - ((1-akk-akrark)wc)/(awrark-wk)≧ (λc)/(λk) + θ ≧ ((1-akk-akrark)wh)/(awrark-wk) をえる。左辺と右辺の比較により、結局、 (wc+wh)/(akc+ θ) ≦ (awrark-wk)/(1-akk-akrark) をえる。この場合、等号が成立するのは、 δk= δr= δc = δh=1 のときに限られる。したがって、資源散逸条件(E10)が成立するのことは、われわれの資源転化体系において、少なくとも一つの δ が厳密に1よりも小さいことである。 以上で、われわれの資源転化体系から、資源散逸条件をすべて導出したことになる。これまでの結論をまずここでまとめておくと、まず、条件(E8)はわれわれのモデルの想定のもとでは、資源転化体系からただちに導出される。条件(E9)は δk, δr, δc のいずれか一つが1よりも厳密に小さいか、農産物の資源含有量 λc が正であるかのいずれかの場合に成立する。条件(E10)は δk, δr, δc,δh のいずれか一つが1よりも厳密に小さいことと同値である。 したがって、われわれの資源散逸条件は、次のようにまとめることができる。すなわち、一つ以上の財の生産部門で再生不可能な形で資源の散逸が起こっているか、でなければ、農産物に資源が含有されていることかつ消費過程において再生不可能な形で資源の散逸が起こっていること、のいずれかが成立していることである。 このように表現された資源散逸条件は次のような意味をもっている。すなわち、図~F1にかえってみる。そこで、工業部門Kと再資源化部門Rの間で一つの物質循環が構成される。この循環の過程では、少なくとも工業製品の資源含有量が正でなければならないことから必ず循環は資源の縮小する方向の変化を生み出す。(E9)の条件は、KおよびRさらに農業部門Cを加えた三角の資源の循環過程で、資源の現象的変化が生じなければならないことを示している条件である。さらに、(E10)の条件は、それに家計Hも加えたすべての循環過程のどこかで、資源の不可逆的散逸が発生しなければならないことを示している。 以上のように、資源散逸条件の意味を考察する上で、われわれの提示した資源転化体系が意味ある役割を果たすことが確認できた。 |
脚注 |
(1)ただし、ここでの廃棄物は再資源化可能な廃棄物であり、たとえば農地に散布された農薬などのように現在の技術水準のもとで再資源化が不可能なものは含まれていない。(もどる) (2)線形多部門モデルの枠組みの中で、結合生産を許容することは解析上やっかいな問題を生じさせることになる。この点についてはすでに古典派経済学者の時代から指摘されていた。J.S.ミルは結合生産を含む体系においては価値の決定が困難になることを次のように指摘している。「時として、二つの相異なった商品が、連帯生産費とも呼びうるものを有することがある。これらの商品はともに同じ一作業、同じ一組の作業の生産物であって、その支出は両者双方のために必要とされ、その一部は一方のために、他の一部は他方のために必要とされるものではない。たとえこの両者のうち一方は不必要であったとし、あるいは総じて使用されることがないとしても、他の一方のために同じ支出を負担する必要があるであろう。このように生産過程が関連しあっている商品の例は少ないものではない。例えば、コークスと石炭ガスとはともに同じ原料から、同じ作業によって生産されるものである。・・・・生産費は、このような関連生産物の相互に対する価値を確定することには、何の関与もし得ない。それはただそれらのものの連帯的価値を確定するのみである」(前掲、『経済学原理』、III、p.254)ミルが、コークスと石炭ガスの結合生産を例としてとり上げているのが興味深い。というのも、コークスは石炭を乾留することによってえられるが、その際結合生産されるガスは最初はその臭いや汚さからやっかいな廃棄物であった。1792年に機械技師マードックによって石炭ガスを燃やして照明に使う方法が考案されて初めて廃棄物から有用性のある財へ変化したのである。石炭乾留は同時にコールタールというやっかいなものも結合生産するが、これもナイロン合成の材料になる石炭酸が1820年代のドイツで技師ルンゲによって抽出されるまでは単なる廃棄物にとどまったのである。ミルの例は廃棄物と結合生産にかかわる問題の象徴的なものだったのである。こうした結合生産のもとでの価値決定の困難は、線形多部門モデル上で古典派的な再生産費価格理論を問題にするときは不可避的につきまとう問題である。特に結合生産を含む場合の労働価値説の有効性についての議論にその点は集中的に反映している。(たとえば、『マルクスの経済学』、高須賀義博訳、東洋経済新報社、1974年刊などを参照)こうした結合生産体系のより積極的な側面は、フォン・ノイマンの成長均衡モデルにかかわる議論の中で多くされている。(たとえば、森嶋通夫、「均衡成長の多部門理論−ノイマン理論の学説史的展開−」(所収『新しい経済分析、第1章』、森嶋、篠原、内田編、創文社、1960年刊)あるいは、M.Morishima, {\em Theory of Economic Growth}, Oxford Univ. Press, 1969などを参照。(もどる) (3)ジョージェスク=レーゲンのこの問題に関する議論は次の著作を参照。『経済学の神話---エネルギー、資源、環境に関する真実---』、小出厚之助、室田武、鹿島信吾訳、東洋経済新報社、1981年刊。(もどる) (4)arは前章のnkと同じものである。(もどる) (5)第2章2.1節でもこの基本的条件は確認している。(もどる) (6)以上の点は、第2章で確認しているわれわれの定義する価値の機能に完全に整合的である。(もどる) (7)双対定理は線形計画問題を考える上での基本的な定理である。たとえば、『経済のための線形数学』、二階堂副包著、培風館、1961年刊、R.Dorfman, P.A.Samuelson and R.M.Solow, {\em Linear Programming and Economic Analysis}, McGraw-Hill Book Company, Inc.: New York.(『線形計画と経済分析』、ドーフマン、サミュエルソン、ソロー著、安井琢磨他訳、岩波書店、1958年刊、)、D.Gale, {\em The Theory of Linear Economic Models}, The Univ. of Chicago Press: Chicago, 1960.(『線形経済学』、D.ゲール著、和田貞夫、山谷恵俊訳、紀伊國屋書店、1964年刊)など参照。(もどる) |
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