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極相社会
Climax Society

鷲田 豊明 著 (2002年19月24日)

 本稿は、私が神戸大学経済学部にいた1998年1月〜4月にかけて書いたものである。出版を意図していたが、引き受けていただける出版社がなかったために実現しなかった。その後、『環境評価入門』(勁草書房、1999年刊)などの執筆に移ったために、そのままになっていた。
 本稿の内容は、研究者としての私の最後の到達点であり、もともと社会科学に志した頃の根本問題、社会とは何か、社会の中で人間はどう生きざるを得ないのか、という問題に応えようとしたものである。いくつかの章が未完になっているが、私の意図するところはほとんど書き尽くされている。
 本書の全部、一部を、あなた自身が見ること以外の目的で、無断でコピーすることを禁じます。
 また、著作権法上で許容される範囲の引用をされる場合でも、著者名(鷲田豊明)、公開日、およびこのWEBサイトアドレス、http://washida.net/kyokusoc/kyokusoc.html を明記することをお願いいたします。


目次

はしがき

第1章 社会目的の衰弱

  1.失われる凝集力
  2.社会的富と成長
  3.システム化した社会の中で
  4.体制の転換期

第2章 環境制約の包囲

  1.公害の時代
  2.地球環境の時代
  3.深刻化する廃棄物・ゴミ問題
  4.幻想的リサイクル社会
  5.「物質」という共同基体
  6.現代社会システムの限界

第3章 極相社会とは何か

  1.社会変化の論理
  2.物質と人間そして社会
  3.弱い社会システムとしての生態系
  4.極相システムの比較
  5.極相社会の諸特性

第4章 社会変化と「私」の視点

  《この章 未完》

第5章 自由とシステム

  1.個人生活への社会の侵入
  2.制度の飽和現象
  3.制度とシステム
  4.システムとは何だろう
  5.システムに覆われた社会
  6.システム化社会の匿名性
  7.複合システムとしての都市
  8.システム化する社会の課題



第6章 個性と集団性

  1.集団への帰属意識
  2.帰属意識の二重性
  3.集団と自己の意味確認
  4.集団性と死そして神
  5.流行のなかの集団性
  6.システムと集団性
  7.システム社会のなかの集団性
  8.集団性抑圧と代替集団
  9.システムへの反応

第7章 経済システムと個性

  1.経済システムの起源
  2.経済システム下の技術の変容
  3.社会の経済化
  4.交換のシステム化
  5.市場経済と計画経済
  6.成長型経済から極相型経済へ
  7.多様性と個性
  8.システムの局所化

第8章 自己認識とシステムの問題

  1.「汝自身を知れ」の不思議
  2.二つの自己認識
  3.システムの主体と自己
     3.1会社というシステム
     3.2学校というシステム
     3.3システム化した家庭と家族
  4.システムと自由


はしがき

現代社会の変化は、経済、政治、社会、文化などのさまざまな領域で進行している。かつては、変化の先には欧米型の経済、社会システムが成立していくのだという漠然とした収束点を意識していればよかった。しかし、一九八〇年代を境に、状況は変わった。経済的に、欧米に追いつき、個々の分野での優劣はありながらも、欧米型の社会経済システムは目標でも何でもなくなってしまった。

ヨーロッパは社会主義体制の崩壊やEUの形成、それにともなう社会的な流動化で若返りを測ろうとし、部分的には成功している。アメリカは、経済的にも社会的にも爆弾をかかえながらも、社会階層の多様性、人材や資本あるいは資源、自然などのキャパシティで、大きな潜在能力を保持している。

一九九〇年代以降、日本は突然、目印もない広い海に出てしまった舟のように、さ迷う社会になってしまった。経済的な力を失ってしまったわけではない。資本や人材など会社社会が蓄えている力は巨大なものである。しかし、ヨーロッパやアメリカが保持している、若返りの妙薬も見当たらないまま、社会自体の老齢化や成熟化が少しずつ進んでいるように見える。あらたな活性化をもたらすような起爆剤もまた見当たらない。

このような日本の状況の中で、八〇年代以前のような社会状況を再現させようとすることが虚しいことは誰もが理解しているのだろう。必要なことは、日本という社会的、歴史的状況にあった、欧米型でもない、あたらしい社会経済システムを形成していくことなのである。ただ漠然と、広い海を行き交う波と風に揺られて舟を進めるのではなく、たとえ完全に絞り切った目標ではなくても、日本が、結果として進まざるを得ない大きな方向を見定めておくことは決定的に重要である。

本書では、日本社会の進もうとしているこの大きな方向を極相社会という概念であらわしている。

《この問題を、特に環境問題という視点を重視しながらみているのが、本書の特徴である。》